平山夢明、黒木あるじ、郷内心瞳…『黄泉つなぎ百物語』は実話怪談の名手49名による最恐アンソロジー

文芸・カルチャー

公開日:2021/8/12

黄泉つなぎ百物語
『黄泉つなぎ百物語』(平山夢明、糸柳寿昭ほか全49名/竹書房)

 平山夢明、加藤一、川奈まり子、営業のK、吉田悠軌……怪談好き、そうでなくとも一度は聞いたことがあるような作家ら総勢49人が話を持ち寄ったアンソロジー、『黄泉つなぎ百物語』(竹書房)が発売された。

 収録数は99編。多くは1000文字程度の短編だから、空いた時間に少しずつ読むのにちょうどいい。ただここはひとつ、表題通り「百物語」としての“体験”も味わうために、一気に読み切っていただきたい。読み進めるうちに恐怖がじわじわと加速していき、最後には背筋が凍るような体験が待っているかも……?

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実話怪談の名手49名が紡ぐ99の恐怖

 49名それぞれが持ち寄った「最恐話」で恐怖の頂(いただき)を求めて紡いだ、99の怪(あやし)の数珠。

 本の紹介にもあるように、「もっと怖い譚(はなし)はあるか?」「ならこれはどうだ」などと、まるで作家たちが車座になって「絶対にすべらない~」もとい「絶対に恐ろしい話」を、競って語っているようにも感じられる怪談集だ。

 リレーのように語られていく99の怪談。そのなかから、いくつかを作者とともに紹介する。

【第四夜 夏休みの田舎】

 父の実家に行ったとき、近所の子供たちと遊び、彼らとそのまま祖父母の家に泊まった記憶があるHさん。当時のことを父に聞くと彼が生まれる前にその家はもう存在しなかったといい……。

 作:伊計翼(いけい たすく) 怪談イベント団体「怪談社」の書記。主な著作『怪談社書記録 闇語り』(竹書房)。

【第十二夜・恨みの黒猫】

 前妻の愛猫を不注意で死なせた男。その後、付き合う女性は皆、黒猫を飼っていて……。

 作:川奈まり子(かわな まりこ) 徹底した取材に基づく実話怪談を追求。主な著作『一〇八怪談』(竹書房)シリーズ。

【第三十二夜 月と狸】

 「お月さま、なんでついてこないの」ドライブ中、娘のつぶやきに気味が悪くなったAさんが空を見ると……。いっぽう、Bさんが福岡空港に車で夫を迎えに行く最中のこと、突然にぶい衝撃音とともに車体が軽く揺れ……。2人の体験にある“共通点”とは。

 作:吉田悠軌(よしだ ゆうき)文筆業を中心にTV映画出演、イベント等で活動。主な著作に『恐怖実話 怪の残滓』など。

【第九十六夜 闇夜に跳ねる】

 深夜に農業用道路から見える田んぼの中で、ぼんぼんと飛び跳ね続ける発光物体の正体は……?

 作:郷内心瞳(ごうない しんどう) 宮城県で拝み屋を営む作家。著書に『拝み屋備忘録』(竹書房)シリーズ、『拝み屋郷内 怪談始末』(KADOKAWA)など。

【第九十九夜 朝がくる】

 山小屋を営んでいたOさんから「俺が死んだら書いていい」と言われた話。ある日山小屋に霊の調査をしにやってきた、若者たちを襲った恐怖とは……。

 作:平山夢明(ひらやま ゆめあき) 作家、映画監督、ラジオパーソナリティーなど幅広く活動。日本冒険小説協会大賞、大藪春彦賞を受賞。主な著作に『怪談遺産』『平山夢明恐怖全集』(ともに竹書房)など。

夜更かしして「一人百物語」をやる贅沢を味わう

 江戸時代から存在するといわれる「百物語」は、「百の怪談話を行うと、本物の怪異が現れる」という言い伝えから行われてきたものだ。100本のろうそくに火を灯し、参加者が怪談を1本披露し終わるたびに、1本のろうそくの火を消していく。灯りが行燈(あんどん)やろうそくの火しかなかった時代、夜のイベントとしては相当盛り上がったことだろうと思う。

 陽がとっぷり暮れてから怪談会をスタートすると、1話数分だとしても、100本目のろうそくの火が消える時間は、草木も眠る丑三つ時(午前2時〜2時半頃)あたりだろうか。それはまさに魔の刻。海外でも、魔女、悪魔、幽霊が現れる「the witching hour」や「devil’s hour」といわれている時間だ。百物語のラストにふさわしい。

 怪談ファンは、ぜひじっくりと夜更かしをして熟読してほしい。感覚が研ぎ澄まされ、物音や空気に敏感になり、ひょっとしたらちょっとしたスリルを味わえるかもしれないから。そんな感覚もまた真っ向勝負の骨太な怪談でこそ味わえるご褒美だろう。

 ただ安心していただきたい。本作に収録している怪談は99話。つまり何も起こらないはずなのだ、たぶん。本書を読み切って何も起こらなかったとする。それでもふと、知っている怪談話が一つ頭に浮かんだとしたら? 頭の中のろうそくの火が消えたその後は……。

文=古林恭

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