地球に帰還した救世主が見たものとは? 人見知り主人公と親友ロボのバディ・バトル! 新世代の巨大ロボットマンガ爆誕!

マンガ

公開日:2021/8/14

スノウボールアース
『スノウボールアース』(辻次夕日郎/小学館)

「巨大ロボット物」とは何か。その解答のひとつとなりえる、“正しく強く面白い”(by庵野秀明)漫画が爆誕した。それがいま話題の『スノウボールアース』(辻次夕日郎/小学館)だ。

 自ら思考するスーパーロボット・地球防衛大機星「スノウマン」に乗り込み、人類を救うため、怪獣との戦いに挑んだのが主人公・流鏑馬鉄男(やぶさめてつお)。彼らの最終決戦があっけなく終わるところから物語は始まる。

 本作は5000リツイート&1万いいねを獲得し、Twitterで大きな話題になった読み切り版『スノウボールアース』をリニューアルして描き直された長編作品。第1集は発売即緊急重版出来となっている。

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唯一無二の友情を育んだロボと救世主を“わかつ”敗北

 2025年、突如現れた銀河怪獣により人類は存続の危機を迎える。まだ子どもだった鉄男は、ひょんなことから父・流鏑馬博士が開発した自律型ロボット“爆弾”「スノウマン」に乗り込んで操り、銀河怪獣を倒してしまう。こうして鉄男は救世主と呼ばれ、戦い続けた。

 鉄男は人類のヒーローだが、いわゆるコミュ障で、人間の友だちはゼロ。過緊張で人とうまく会話ができないのだ。彼は「スノウマン」をユキオと呼び、唯一の話し相手にしていた。なおユキオも爆弾だった自分を生かしてくれた彼に、特別な感情を抱く。こうして救世主とロボットの間には友情が存在していた。

 時は経ち、地球から遠く離れた場所に銀河怪獣の群れを見つけた人類は、鉄男とユキオと宇宙戦艦エルデ号を向かわせる。彼らとのコンビネーションで、エルデ号は新兵器で全怪獣2万頭を一気に殲滅する作戦だった。だが原因不明のシステムダウンによりこの戦艦は何もできずあっさりと沈む。

 ユキオ1体で戦い続けたが、やがて限界がやってきた。もはやユキオが自爆するしかない状況だ。「怪獣の全滅は無理でも、少しでも数を減らせるなら……」覚悟を決めた鉄男だったが操作ができなくなっているのに気付き、「操縦権を返せユキオ!」と叫ぶ。

 カウントダウン後、脱出ポッドが地球へ向かって射出された。「私の夢は鉄男がただ幸せな人生を送るコト。たくさん、友達を作って―」ユキオはそう言い残し、多数の怪獣を道連れに閃光に包まれた……。

 鉄男の乗った脱出ポッドは地球に到着していた。「ユキオとの約束を守ろう」そう思って外に出て目に飛び込んできたのは雪と氷に包まれた世界……。

 最終決戦に赴き戻ってくるまでの10年の間に、青く美しかった地球は真っ白に全凍結した状態「スノウボールアース」になっていたのだ。救世主は何も救えなかったのだろうか? ここまでが第一話でありプロローグである。ここから“サバイバル”巨大ロボット冒険譚が開幕する。

多くの謎とユキオの復活と怪獣使いの女の子

 鉄男が生き残った人を探し始めると、すぐに見つかる。それは乃木蒼(のぎあお)ら、ミシマ・モールという村を作って暮らす人々だった。銀河怪獣を食らい、資源にするなどして生き延びてきたのだ。ただそれは銀河怪獣との戦いが続いていることも意味していた。

 襲ってきた銀河怪獣から蒼たちをかばって殺されかけた鉄男は、飛んできたロボットに救われる。それは彼が乗ってきた可変脱出ポッド「スノウボール」。中身はユキオだった。自爆の瞬間、人格を含む全データを転送していたのだ。戦う彼らを見て、ある村人は救世主を思い出してつぶやく。

だ…
大丈夫だよ!
大丈夫だ!
そうだろ?
オレたちは……
この光景を知っている!!

 ろくな武装のない脱出ポッドのボディでも、鉄男が乗り込むことで怪獣を一蹴するほどの力を発揮する。こうして救世主の戦いが再び始まった。

 帰還した救世主の命を狙う“敵”とは?

 そもそも完璧な作戦だったはずの最終決戦が失敗した理由は?

 鉄男たちが宇宙へ飛び立った後、地球をスノウボールにしたヒトガタ怪獣の正体は?

“怪獣使い”と呼ばれる蒼の特別な力とは?

 物語は“多くの謎の存在”が徐々に明らかになってきたところである。さて「巨大ロボット物」とはまさに救世主の物語だ。戦う目的は誰かを救うため。あのアニメも、あのマンガもそうであったはずだ。

 本作は、特殊な力を持ったナイーヴな少年が駆り、巨大ロボットの性能を引き出して“悪い敵”を退け、美しいヒロイン仲間たちとともに戦う……まさに王道の「巨大ロボット物」である。

 ダイナミックに描かれるド迫力のバトルシーン、スケールの大きい世界観、精緻な設定、大いなる謎、数々の伏線、話の緩急となるユーモア……。もはや傑作の匂いしかしない『スノウボールアース』は、巨大ロボット物好き、マンガ好きなら絶対に読むべき作品だと言い切ろう。

 最後に一つ。コミュ障の鉄男が「はたして人間の友達を作れるのか」にも注目したい。読めば分かってもらえると思う。あなたもユキオと同じように、きっと心配になるはずだ。

文=古林恭

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