芦田愛菜、上白石萌音…本好きから絶大な支持!2022年の劇場OVAアニメ化も決定! はやみねかおる作品読むならこの5冊!

文芸・カルチャー

更新日:2021/9/15

映画『都会(まち)のトム&ソーヤ』

 7月30日より公開中の映画『都会(まち)のトム&ソーヤ』。おばあちゃん仕込みの卓越したサバイバル能力をもつ主人公・内藤内人に、映画『万引き家族』で注目を浴びた城桧吏、内人が思いを寄せるクラスメート・堀越美晴には『大豆田とわ子と三人の元夫』で松たか子の娘役を熱演した豊嶋花、ほか中川大志、市原隼人、本田翼らが出演することで話題を集めているが、原作者・はやみねかおるにとって初の映画化作品であることを忘れてはいけない。

 1989年のデビュー以来、著作の累計発行部数は660万部を突破。朝井リョウをはじめとする多くの小説家に影響を与え、芦田愛菜、上白石萌音といった本好きで知られる芸能人の支持もアツく、今の30~40代を筆頭に、はやみねかおるを通過して育った本好きの方も多いことだろう。それなのに、はやみねかおるの名前が大々的にとりあげられる機会がそれほど多くなかったのは、読者にとってのはやみねかおる作品が、あまりに大事すぎたからなんじゃないかと思う。

 先日逝去された那須正幹氏の「ズッコケ」シリーズのように、子どもたちはみな、あたりまえのように、はやみねかおる作品に夢中になった。それは、大人たちの知らないとっておきの宝物を見つけたかのような、高揚感を抱かせる体験だったはずだ。なんなら、同年代の本好き相手にさえ“自分だけが知っている”“自分が発見した”ものとして優越感を抱いていた人も少なくないだろう。現実には660万部も売れているのだから、そんなわけはないのに。

advertisement

 だが、映画化という大きな晴れ舞台を迎えた今、はやみねかおるを自分たちだけのものにしておくのはやっぱりとてももったいない。はやみねかおるに触れる機会をもたないまま大人になってしまった人たち。児童文学だから、自分は対象外だと感じてなんとなく読まずに来てしまった人たち。もう一度、言う。これほど、もったいないことはない。はやみねかおるは、現役の子どもたちだけでなく、かつて子どもだったすべての大人たちが読んで胸躍らせることのできる作品を書く作家だ。

 2022年には『怪盗クイーンはサーカスがお好き』が劇場OVAアニメ化が決定し、ますます注目が集まっているはやみねかおる作品。そこで、ここでは、はやみねかおるビギナーに向けてのおすすめを5作ご紹介したい。

【1】『そして五人がいなくなる』から始まる人気の「名探偵夢水清志郎ノート」シリーズ!

そして五人がいなくなる
『そして五人がいなくなる 名探偵夢水清志郎事件ノート』(はやみねかおる/講談社)

 4月1日、エイプリルフールの日、洋館に引っ越してきた怪しい男。表札に「名探偵 夢水清志郎」と掲げた彼は、ひょろっとした長身で180センチ以上あり、サングラスに黒いスーツで、本に埋もれて暮らしている。人間離れした意地汚さを見せるのに、本を読みだすと数日間、食べることを忘れ、自分の生年月日はおろか、どこで何をしてきたのかも覚えていない。つまり常識ゼロの不審者。どうやら元大学教授らしいので、教授と呼ばれることになった彼は、だけどまぎれもない、名探偵。そんな彼が、隣家に住む岩崎亜衣・真衣・美衣という中学生の三つ子とともにさまざまな事件を解決していくのが同シリーズだ。

 出会いの巻となる『そして五人がいなくなる』で描かれるのは、遊園地のジェットコースター上をはじめ“ありえない”状況で次々と子どもを消していく“伯爵”との対決。教授の非常識っぷりは腹を抱えて笑うほどユーモラスなのに、事件の描写にはぞっとするほど冷ややかな瞬間があり、トリックが本格的なのはもちろん、事件の動機や解決の道程に、ときどきわりきれない何かを残していくのもシリーズの特徴。教授は、はやみねかおるは、決して読者を子ども扱いしない。ごまかしようのない現実を描いたうえで、希望と救いを提示する。そんなはやみねかおるイズムを、世に知らしめたシリーズである。

 ちなみに現在は第2シーズンとなる「名探偵夢水清志郎の事件簿」シリーズが刊行中。

【2】ラストにゾワっと『ぼくと未来屋の夏』

ぼくと未来屋の夏
『ぼくと未来屋の夏』(はやみねかおる/講談社)

「未来を知りたくないかい?」と、夏休みの前日、小学6年の風太に声をかけてきた怪しげな風采の男。子ども相手にも容赦なく代金(一回100円)を要求する、未来屋を名乗る彼――猫柳との、ひと夏の冒険を描いた作品だ。女性にはめっぽう弱く、子どもには理不尽な猫柳さんと、ややクールな風太の掛け合いがやっぱり、軽妙で楽しい。

 風太の暮らす髪櫛町は三日月の形をしていて「神隠しの森」「首無し幽霊」「人喰い小学校」「人魚の宝」とさまざまな伝承が残っている。そのひとつひとつを、猫柳さんの未来を見通す力とともに解決していくのだけれど、伝承の裏に隠されている真実は、心地よいものばかりではないのだと突きつけるラストにはゾワっともさせられる。

【3】はやみね作品随一のラブコメ『僕と先輩のマジカル・ライフ』

僕と先輩のマジカル・ライフ
『僕と先輩のマジカル・ライフ』(はやみねかおる/KADOKAWA)

 大学生になっても夜9時には就寝するライフスタイルを貫き、度を越えた真面目っぷりで変人の域に達している井上快人。おばけが出ると噂の格安・今川寮に入居を決め、ポルターガイストをはじめとする怪奇現象の謎を解いていく相棒は、幼なじみの春奈。なんと超能力者である。快人に負けず劣らずの変人ぞろいの今川寮で、群を抜いている長曽我部先輩の強引な手口であやかし研究会に入会させられた2人は、村の地縛霊や河童など、出かける先々で怪奇現象に巻き込まれていく……。

 ここでもまた、人の薄暗い感情がところどころに浮かびあがり、切ない気持ちにさせられるけれど、幼なじみ以上恋人未満な2人の関係に甘酸っぱさも味わえる、はやみね作品随一のラブコメでもある。

【4】映画に興味をもったらこの1冊『ディリュージョン社の提供でお送りします』

ディリュージョン社の提供でお送りします
『ディリュージョン社の提供でお送りします』(はやみねかおる/講談社)

「あなたの枕元に赤い夢をお届けします」がキャッチフレーズのディリュージョン社。顧客のニーズにあわせて、書籍の世界を現実世界につくりあげることを事業とした、夢のような会社である。そのために全身全霊を注ぐエディター職に応募した森永美月は、しかし、本をまったく読まない。それの何がだめかもわからず、面接では「がんばります!」しか言わなかった彼女がなぜか採用されて、本格ミステリーを扱うM0課に配属されるというのが物語のはじまり。

 究極のR・RPG(リアル・ロールプレイングゲーム)づくりをめざす『都会のトム&ソーヤ』とも通じるところがあり、映画に興味をもった読者はぜひ手に取ってみていただきたい。常識はずれで我が道を爆走する大人を描くのは、はやみねかおるの十八番だが、変人に男女の境目などない、というのもよくわかる一冊だ。

【5】好奇心と遊び心を呼び覚ます『都会(まち)のトム&ソーヤ』

都会(まち)のトム&ソーヤ
『都会(まち)のトム&ソーヤ』(はやみねかおる/講談社)

 そして映画公開中の本作は、「夢水清志郎」シリーズと並ぶはやみねかおるの長寿シリーズ。主人公の内人は、自称「どこにでも居る平凡な中学2年生」だが、幼いころから山にこもって祖母に修行をつけられていたため、どんな状況でも切り抜けられる卓越したサバイバル能力を身につけている。ひょんなことからクラスメートの竜王創也(学校始まって以来の秀才で、大財閥の御曹司)とともに、「世界最高のゲームクリエイターになり、究極のゲームを作る」という夢を共有することに。

 伝説のゲームクリエイター・栗井栄太と対決しながら、一歩一歩、2人が夢に近づいていくこの小説自体に、RPGをプレイしているようなわくわく感がつめこまれている。出歩く外すべてがゲームの舞台かのような描写は、私たちの何気ない日常もまた冒険のかけらで溢れているのだということを思い出させてくれるし、次々と現れるキャラクターはかつてないほど強烈に個性的。先に映画を観るもよし、原作やコミカライズから手に取ってみるもよし。いずれにせよ内人と創也の織り成す最高のゲームに没頭し、好奇心と遊び心を呼び覚ましてほしい。

文=立花もも

はやみねかおる
1964年4月16日、三重県生まれ。三重大学教育学部数学科を卒業後、小学校の教師となり、クラスの子どもたちに読み聞かせするための物語を書きはじめる。1989年「怪盗道化師」で、第30回講談社児童文学新人賞に入選し、作家デビュー。主な作品に『奇譚ルーム』(朝日新聞出版)、「都会のトム&ソーヤ」シリーズ、「怪盗クイーン」シリーズ(ともに講談社)など。

あわせて読みたい