子育ては自己責任!? 「子育て罰」を与える社会を変えるには

社会

更新日:2021/8/23

子育て罰 「親子に冷たい日本」を変えるには(光文社新書)
『子育て罰 「親子に冷たい日本」を変えるには(光文社新書)』(末冨芳、桜井啓太/光文社)

 日本の少子化が止まらない。なぜ止まらないのか、国はどうすべきか、などの議論が繰り返されているが、私たちが少子化を止めるためにすぐできる手段が提示されることは少ない。

『子育て罰 「親子に冷たい日本」を変えるには(光文社新書)』(末冨芳、桜井啓太/光文社)の書名にドキッとした人は、子育て問題に熱心な人だろう。まさに、今の子育てを体現したワードだ。

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「子育て罰」とは「政治や社会、そして企業が、親や子どもに課す冷たく厳しい仕打ちの総称」であり、「親子に冷たく厳しい日本の政治や社会の責任を問い、改善するための概念」でもあると本書は説明している。

 本書は、政治や社会的な仕打ちによって、子育てする保護者がそうでない大人に比べて賃金が低く貧困に陥りやすかったり、中でも低所得子育て世帯に対しては所得再配分が「冷遇」されているため非常に苦しい家庭環境になりやすかったりする、としている。「子育て罰」は、自己責任論とは関係がない。

 実はこのワードの元は「チャイルド・ペナルティ」という学術用語で、これに着目した研究は2000年頃から海外で積極的に行われているそうだ。児童手当をなくして待機児童の財源にしてしまおうという国の議論、「こども庁」の政治利用ほか、国が「子育て罰をどんどん厳罰化しようとしている姿勢」に怒りをあらわにし、「子育て罰」をなくしたいという思いが本書に綴られる。

 明治初期の日本は「子ども天国」…つまり子どもにやさしい国だったという。当時の日本を訪れた欧米人たちによる、そのような記述が残されているそうだ。例えば、大森貝塚の発見で知られるエドワード・シルヴェスター・モース東京大学教授は、「…世界中で日本ほど子供が親切に取り扱われ、そして子供のために深い注意が払われる国は無い…」と記録しているし、作家のイザベラ・バードは「私は、これほど自分の子どもをかわいがる人々を見たことがない」と絶賛したというのだ。

 なぜ百年余りの間に、日本人の「子どもをめぐる心性」がこうも変化したのか、本書は切り込んでいく。

 さまざまな論が本書内で展開されるが、私たちが自分たちの手で「子育て罰」を軽減していく手段があるとすれば、そのヒントは「ウェルビーイング」にありそうだ。

 本書によれば、現代の日本人は「自立の呪い」にかかっている。特に男性に多いらしいのだが、人間を「自立」「効率」の基準で評価する。自分の方が強い、偉い、稼げている、自己コントロールができている、要領が良いなど、「自立イデオロギー」で支配された現代の中で、弱い存在である子どもや子育てをする親にも容赦なく「子育て罰」を課すことになってしまっている、というのだ。しかし、実は自立していると思い込んでいる多くの人たちは、他者に見せない弱さを併せ持っている。

 子育て罰を日本からなくすためには、実は大人の側へのケアや労りが必要だ、と本書は述べる。大人に対してケアをすることで、子どもや子育てをする親といった、社会で大切にしなければならないはずの存在を大切に思えるゆとりができる、というのだ。

「ウェルビーイング」の概念は、「自分は幸せになるべき大切な存在である。それはこの時代を生きるどの大人も子どもも同じである」とも解釈できる。人間の持つあらゆる「弱さ」に光を当てて、自分の弱さも他者の弱さも許し合い、「自立の呪い」を人々の間で解いていくことで、社会が子育て罰の軽減へと進んでいけるのかもしれない。

文=ルートつつみ(https://twitter.com/root223

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