キュウクツな自分が溶かされて、生きるのが楽になる。頭でっかち人必読の「風流な生き方」

2012/9/9

禅的生活

ハード : PC/iPhone/iPad 発売元 : 筑摩書房
ジャンル: 購入元:電子文庫パブリ
著者名:玄侑宗久 価格:756円

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突然ですが、あくびを意識的にしてみましょう。なんだか、体がリラックスした気がしませんか? 今度は、手足の先まで意識して深呼吸をどうぞ。なんだか、カラダが生き還った気がしませんか? あくび、呼吸、ココロ。日々の無意識の動き。そんな無意識を意識でコントロールしてみると…日々の迷いや辛さやが、香りある風流に大変身~。

そんな秘技の指南役は、禅僧で芥川賞作家の玄侑宗久さん。アントレの取材で、福島・福聚寺に伺ったのは06年師走でした。「先週、骨折してしまいまして。こんな手ですみません」。ご挨拶の名刺交換時、同行した編集部員が恐縮すると、「おっ、(その指は)風流ですね~」と玄侑さん。取材数日前、自転車で転倒骨折し、包帯姿の彼の親指。その痛々しい風景を前に、玄侑さんが発したこの一言。

「風流ですね~」。その禅的一言で、「痛々しい彼」は、「流石(さすが)な経験をした男」に変身し、「痛み」は、「かけがえのない楽しみ」に、一瞬で変わったのでした。「禅語」の力は、感得した刹那に全身全心に染み渡る。 しなやかでスゴい力なのです。

仕事、私生活。私たちが世間で暮らすとき、揺らぎやすい8種類の風が吹くそうです。利衰(りすい)、毀誉(きよ)、称譏(しょうき)、苦楽(くらく)。意にかなう事は「利」で、意に反する事は「衰」。面と向かってほめる事が「誉」。面と向かってけなすことが、「毀」。そして、面と向かわずにほめる事が「称」、陰でけなすことが「譏」。もちろん苦楽は文字の通り。現代人の私たちは、こんな8つの風に、毎日、浮き足立っているのではないでしょうか? そこに「禅語」はこう指し示します。「八風吹けど動ぜず」そのためには、どうするかは本書をぜひ。

本書は、玄侑さんが多くの「禅語」の世界観をひもときながら、「不測で不足の風」に心かきむしられる日々を、あるがままに風を楽しむ「風流な」生き方を伝授してくれるのです。それも、厳しい座禅も、痛みをともなう骨折もなしに…(笑)

200超の「禅語」のすべてが味わい深い智慧ですが、代表的な「禅語」を私なりに章立てて偏執紹介します。

1、「迷い」の生じるメカニズムを知っておく
  【無可無不可】(可もなく不可もなし)『論語』 
   ⇒自分の可能性を決めつけない
  【一切唯心造】(一切はだた心が造るもの)『華厳経』
   ⇒好き嫌いが発生する関所をバカにする
2、悟った人に見える風景は、こんなに自由
  【柳緑花紅真面目】(柳は緑花は紅しんめんもく)『東坡禅喜集』
   ⇒キュウクツな価値判断を止め、ありのままの世界をみる
3、 日常をどう生きるか
  【日日是好日】(にちにちこれこうにち)『雲門広録』
   ⇒雨の日も、雪の日も、嵐の日もよい日と捉える
4、 あらためて、「私」とは何者かを知っておく
  【知足】(足るを知る)『老子』
   ⇒我が身の現状を肯定する
5、 風流に生きる
  【不風流処也風流】(風流ならざるところもまた風流)
   ⇒不足や不測、不完全や痛みなど、意にそぐわないことを「ゆらぎ」として味わう

「痛々しい」から「流石」へ。「浮き足立つ」から「風流」へ。「キュウクツな人」から「味わえる人」へ。ぜひ、ゆらぎの風と流れを味わいください。


大脳をもった人間は、過剰な自我という名の煩悩によって、自らの心と体を締め付けている。例えば、愛憎、好き嫌い。自身をキュウクツにする記憶や固定観念に練り上げられた二次感情。それを生み出す関所としての無意識(脳機能)のクセを知っておくことから本当の自由は始まるのだ。ちなみに自由とは、すべての現象は「自」らに「由」来する、が本来の意味。本居宣長は「情」という文字を「こころ」と読ませ、絶えず揺れ動くものと規定。だから「ころころ」から「こころ」という和語が造られた、という。なるほど…

「身心脱落」。本来の心を覆っていた残像やさまざまな思いの束縛が抜け落ちること。師匠の天童如浄から、そう表現され悟った道元禅師は、「脱落身心」と応答し、曇りが晴れても体はあるし、心もある。しょせん我々は、この身と心を使って生きてゆくしかないのだから、その心身に質的な大転換を迫ろうと表した。色即是空、空即是色。心身も生死も往還も分けない東洋の智慧は、世界の思想の中で最も深いと思う

玄侑さんが幅広い智慧によって交差する脳機能と東洋の智との連関もおもしろい。爬虫類の脳(フェアリーブレイン)、動物脳(アニマル・ブレイン)の次にある、人間脳(ヒューマン・ブレイン)こそ、悩み=妄想の元凶であり、しかし、悟りへのエンジンになる。作中に出てくる八つの脳機能(全体視機能、還元視機能、抽象機能、定量機能、因果特定機能、二項対立判断機能、実存認知機能、情緒的価値判断機能)は、できるビジネスパーソンの代表脳力。これが、生存確率を高め、人間らしい世界認識を成立させた反面、煩悩の根源ともなる機能でもある

玄侑さんがひも解く、西洋的自己と東洋的自己への探求の違い。その解説に膝を打つ。デカルト、パスカル、スピノザ、ヘーゲル、マルクス、サルトル、キルケゴール、フッサール、マッハ、メルロ・ポンティ、ベルクソン、デヴィッド・ボーム、イリヤ・プリゴジン…やはり、一神教の土壌が、神と自己の分離、身体と精神(心)の分離から、自己を探索させたのだろうか。東洋的な自己は、もっと、まるごと混沌としている