「夢で見たことを人に話すと現実になる」大学生と夢の香りを売る不思議なお香屋さん…縁と夢と香りの胸キュンファンタジー小説

文芸・カルチャー

公開日:2021/8/25

香屋 夢見堂 ~夢の香りは縁を結ぶ~
『香屋 夢見堂 ~夢の香りは縁を結ぶ~』(松田詩依/メディアワークス文庫/KADOKAWA)

 朝、目が覚めると、さっきまで見ていた夢の感覚が身体にまとわりついていることがある。楽しい夢を見たら明るい気分で1日を過ごせそうな気がしてくるし、恐ろしい夢だったら、なかなか疲労感が抜けない。せっかく見るなら、毎晩いい夢を見てみたいもの。だけれども、夢の世界はなかなか思うようにはいかないものだ。

 でも、もし、毎晩素敵な夢を見させてくれるお香があったとしたら…。松田詩依氏による『香屋 夢見堂 ~夢の香りは縁を結ぶ~』(メディアワークス文庫/KADOKAWA)は、夢の世界を巡るファンタジー小説。魔法のiらんど大賞2020 小説大賞《大賞》受賞作に選ばれたこの作品は、読んだ人をすぐに心地よい夢の世界にいざなってくれる。

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 物語の舞台となるのは、東京の下町・人形町に店を構える老舗の香屋「夢見堂」。吉夢から凶夢まであらゆる夢を見させるお香を売り買いする不思議な香屋だ。店主の獏は、毎日仕事をさぼって居眠りばかり。そんな獏に呆れながらも、女子大生の結はこの店で獏とともに、日々持ち込まれる夢にまつわる依頼を解決している。

 結には、夢で見たことを人に話すと現実になる能力がある。そして、その特異な能力は、人に悪夢を植え付ける夢魔を惹きつけ、夢魔によって、結は両目の視力を奪われてしまった。結は、夢に関する専門家である獏を頼り、この店で働くことになったのだが、獏もまた、夢魔によって自分ひとりの力で夢を見ることができない体質にさせられていた。互いの欠けたところを補い合うように生活するふたり。彼らを一体どんな運命が待ち受けているのだろうか。

 獏は本当に奇妙な男だ。さらりと背中まで流れる黒髪。色白の肌。あまりにも似合う和服の着流し姿。気だるさの中にミステリアスな雰囲気を漂わせる漠の美貌には、誰だって魅了されてしまうだろう。だが、獏は少々性格に難がある。夢の匂いが分かる獏は、初対面の人間相手に「腐敗臭がする」だとか「とても嫌な臭いがする」などと暴言を吐くことも少なくはない。思ったことをそのまま口にしてしまう性格は、周囲の人たちを怒らせてばかりいるのだ。

 しかし、そんな彼も結に注ぐ視線は優しい。憎まれ口を叩きながらも、目が見えなくなった結を気遣い、毎晩悪い夢にうなされてばかりの彼女のために、吉夢のお香を焚いてあげている。でも、結も獏に惹かれているのに、獏のその視線には気がつかない。互いが互いを大切に思いながらも、気持ちは伝わらない。その距離感がなんともどかしいことだろう。

「どんな悪夢にうなされても、俺が助けに行きますから」

 そんな言葉を吐く獏は結を守り抜くことができるのだろうか。

 あなたも、ぜひとも獏と結とともに、夢の世界を冒険してみてほしい。縁と夢と香りがつなぐ、少し不思議なこの物語は、読後、幸せな夢を見た後のような心地よさであなたを包み込むことだろう。

文=アサトーミナミ

『香屋 夢見堂 ~夢の香りは縁を結ぶ~』作品詳細ページ
https://mwbunko.com/product/322105000048.html

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