ムロツヨシ初主演! 妻の他界後、衝撃的な事実が判明する……。感涙必至の父娘の物語『マイ・ダディ』

文芸・カルチャー

更新日:2021/8/25

マイ・ダディ
『マイ・ダディ』(山本幸久/徳間書店)

 過去は変わらないはずだが、人間がもつ記憶というものは、本当にいとも簡単に書き替わってしまうものだ。時が経てば経つほど、思い出を美化してしまうことはよくあることだし、その反対に、かつて経験した幸せな時間が、全て幻に思えて疑心暗鬼になってしまうこともある。『マイ・ダディ』(山本幸久/徳間書店)は、一人の父親が、残酷な現実と向き合う物語。2021年9月公開予定のムロツヨシ初主演映画を、映画公開に先がけて小説化した一冊だ。

 主人公・御堂一男は、中学生の娘・ひかりと2人暮らし。最愛の妻・江津子は8年前に事故で他界。一男は小さな教会の牧師をしながら、ガソリンスタンドでアルバイトに励みつつ、ひかりを男手ひとつで育てている。だが、あるクリスマスイブの夜、ひかりは突然倒れてしまう。病院で診断された病名は、白血病。おまけに、担当医師からひかりが一男の実子ではないことが告げられた。

「神様は耐えられない試練は与えない」。牧師として、その言葉を信じてきた一男だが、彼が見舞われた現実はあまりにも残酷だ。一男は、妻・江津子の過去を知らない。両親を早くに亡くしたということしか知らない。15年前のある日、江津子は一男の教会に突然現れ、その後、2人は交際に発展。そして、子どもができたのをきっかけにすぐに結婚し、事故で彼女が亡くなるまでずっと幸せに暮らしてきた。だが、その幸せは全部嘘だったのだろうか。江津子は自分のことを愛していなかったのか。一男は確かめようがない過去に絶望してしまう。

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 だが、ひかりの病気の進行は一男のことを待ってくれない。彼女を救うには、骨髄移植しか方法がないらしい。それに適合するドナーは「数百万人に一人」。「血縁者は適合率が上がる」という事実を知った一男は、ひかりの父親を懸命に探し始める。どんなに苦しくても、江津子の過去と向き合おうとする。どうか一男の苦労が報われてほしい。必死な一男の姿を見れば誰だってそう願わずにはいられなくなるだろう。

「病気を扱った物語」というと、恋愛にスポットライトが当たる作品が多かったりもするが、病気で苦しむ人のことを思っているのは、恋人だけではなく、家族も同じだ。そして、「愛する娘を救いたい」という一心で走り続けるひとりの父親のこの物語は、単なる「闘病もの」ではない。深い苦悩を抱えた男の姿がなんとも切なく、胸をしめつける。

 不器用で、ちょっぴり冴えない。でも、娘のことは誰よりも愛している。そんな父親の姿が物語が進めば進むほど、だんだんカッコ良く見えてきた。ムロツヨシは父親をどう演じるのだろうか。クライマックスでは、父と娘の絆に思わず、涙が。父娘のかけがえのない関係に心が温まる感動の物語は、この秋、映画でも小説でも大きな話題を呼びそうだ。

文=アサトーミナミ

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