この衝撃的な展開を想像できるだろうか? 阿部智里「八咫烏」シリーズ第2部の2巻『追憶の烏』で山内の“その後”が明らかに

文芸・カルチャー

公開日:2021/8/25

追憶の烏
『追憶の烏』(阿部智里/文藝春秋)

 累計170万部を突破した阿部智里の小説・八咫烏シリーズ。山神によって開かれた〈山内(やまうち)〉と呼ばれる異界を舞台に、人間の姿に変化する八咫烏の一族を描き出すファンタジー小説だが、次の金烏(山内の統治者)となる「日嗣の御子」の正妃の座をめぐる第一作『烏に単は似合わない』から、読者の予想をとことんまで裏切り続けてきた。ここではないどこかのハイファンタジーかと思いきや、私たち読者が生きる世界と地続きであることが明かされたり、青春群像劇が始まったかと思いきや大猿の襲撃により悲劇が立て続けに起こり、山内の存在そのものが滅亡の危機に追いやられたりと、怒涛の展開が続いた物語は第6巻『弥栄の烏』で第1部が完結したが、謎の多さにおいて第2部は第1部の比ではない。

 このたび刊行された第2部の2巻『追憶の烏』の紹介文を、出版元・文藝春秋の公式サイトで確認してみると〈猿との大戦の後、山内では一体何が起こっていたのか――? 前作『楽園の烏』で描かれなかった山内の“その後”が明らかに!〉の2行のみ。もうちょっと何かないのか、と言いたくなってしまうけど、読み終えた今、心の底から思う。「それしか言いようがねえ!」。語りたいことは、山ほどある。だが何を言っても、ネタバレに繋がってしまうから、言えない。なのでここでは第2部の1巻『楽園の烏』をふりかえりながら、できるだけ情報を伏せて読みどころをお伝えしたい。

『楽園の烏』の主人公は安原はじめ。〈どうしてこの山を売ってはならないのか分からない限り、売ってはいけない。〉という遺言とともにある山を相続した“一介のタバコ屋のオッサン”である彼が、〈幽霊〉と名乗る女に誘われ、山の秘密――つまりは〈山内〉に足を踏み入れ、「雪斎」という統治者から山の権利を買い取る申し出を受ける話である。この雪斎、金烏こと奈月彦の従者で、第一部の主人公でもあった雪哉なのだが、その面影はなく、山内自体が、読者の知っている場所からすっかり様変わりしてしまっていた。

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 描かれなかった空白の期間にいったい何が起きていたのか――が『追憶の烏』では語られるのだが、物語が始まってしばらくはとても穏やか。奈月彦は愛娘にデレデレだし、山内を出ることになった雪哉の人間世界遊学模様もおもしろい。だが平穏はとても唐突に、これ以上ないほど非情な形で破られる。山内を蝕んでいたすべての膿が噴出するように、山内のありようを塗り替えてしまうほどの事件が起きるのである。そして登場する、まさかのあの人。嘘でしょ、ここで!? 何それどういうこと!?

……と、衝撃を受けること間違いなしなので、これ以上は言えない。ただひとつ言えるのは、細かい伏線を張り続けていると著者・阿部智里が言っていたとおり、すべては1巻『烏に単は似合わない』から繋がっているということ。読めば、すぐ既刊をさかのぼりたくなること間違いなしなので、ひとそろえ手元に置いてから読みはじめることをおすすめする。

 また、今回はコミカライズ版『烏は主を選ばない』第2巻(講談社/漫画・松崎夏未)と同時発売を謳っている。同じタイミングで読むことでここまで響きあってくるのかと驚くこと請け合いなので、こちらもあわせて堪能してほしい。

文=立花もも

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