それ、「フェイク休憩」かも? スポーツ学・睡眠学の観点から考える上手な休み方

ビジネス

公開日:2021/9/2

リモート疲れとストレスを癒す「休む技術」
『リモート疲れとストレスを癒す「休む技術」』(西多昌規/大和書房)

 コロナ禍以降の約1年半、上手にリモートワークをする方法やコツについては多く語られてきました。「働き方」は既にご自身のスタイルを確立できていても、「休み方」に苦戦しているという方は多いのではないでしょうか。『リモート疲れとストレスを癒す「休む技術」』(西多昌規/大和書房)で、早稲田大学のスポーツ科学学術院准教授・睡眠研究所所長を務める著者は、リモートワーク特有の心と脳に蓄積する疲労感が「今までとは違う疲れ」であるということを前提とした上で、どうすれば「癒やし」が実現できるかのテクニックを教えてくれます。

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 まずはこの1年半、様々なメディアで提唱されてきて、本書でも紹介されている留意点をいくつか復習してみましょう。

・こまめに休憩をとる
20分おきに数十秒単位の休憩をし、PCディスプレイ以外のもの(本書では5メートルという距離が推奨されています)を見て眼を休憩させる

・在宅仕事であっても、ちゃんと着替える
仕事をしている間はキチッとした服に着替えることで、心身のオン・オフを図る(オフの服装を意識することで「休みのクオリティ」を上げる)

・スマホやチャットアプリの通知をコントロールする
メールやチャットアプリを確認する時間や頻度を決め、制限される設定にする。スマホの置き場所や就寝時の充電場所を工夫する(仕事から離れてしっかり心を休められる時間をつくり、スマホに乗っ取られないようにする)

 上記のように既に多方面からノウハウは論じられていますが、特に悩ましいのは、オン・オフの付け方ではないでしょうか。オン・オフは心の中で行われるため、本人以外は容易に確認できず、本人自身も「本当に休めているか」の検証が難しいからです。

 著者は、休憩時間にスマホをいじって、デジタルオンライン疲労から解放されていないのに休憩できていると思い込む「フェイク休憩」を多くの人がしてしまっている可能性を指摘しています。

当人は、主観的には休憩した気分になっているのでしょう。たしかに、退屈な書類や神経を使うメールなどと向き合う仕事と違って、スマホでのSNSやゲームは、気分転換にはなるでしょう。しかしデジタルで疲労している脳の部分、あるいは座りっぱなしで地味に負担がかかっている腰や背中、首の休憩には、まったくなっていないわけです。まさに、「フェイク休憩」ですね。

 何が「休み」かというのは十人十色、百人百様ですが、「仕事以外のことをする」というだけでは、残念ながら現代社会の「休み」の基準としては不十分になってしまったということです。

 本書では、仮にそういった問題点をクリアした先にも、「コロナロス」や「コロナアンビバレンツ」に陥る人が少なからず出てくる可能性まで論じられています。「コロナ禍が終わってほしくない」というアンビバレントな(相反する思いが同時に存在するような)感情のことです。現状維持をできるだけ望む人間の本能は「やっとコロナ禍に慣れたと思ったら、もうアフターコロナか……」というストレスを発生させます。

あえてセンセーショナルな言い方をするなら、メディアにとって、都合のいい専門家を呼んで不安を煽れば消費者の関心を集められるという点で、コロナ禍は近年ではなかなかないコンテンツです。人間の恐怖に反応する心理本能に訴える記事や番組は、いくらでもつくることができます。

 相当頑張らないと本当の意味で「休む」ことが難しくなっている現代社会ですが、最初だけ意図的に制約を自分自身に課せば、「フェイク」をその後長きにわたって撲滅することが可能だと本書は教えてくれます。憩いのひとときを手にできる方法を、この機会に模索してみてはいかがでしょうか。

文=神保慶政

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