全世界で700万部のロングセラー! 絵本「野ばらの村」シリーズが復刻!

文芸・カルチャー

公開日:2021/9/4

野ばらの村のけっこんしき
『野ばらの村のけっこんしき』(ジル・バークレム:著、こみやゆう:訳/出版ワークス)

 幼い頃に読む絵本や児童書から得た体験は、その人の人格形成に大きく影響する気がしている。筆者は幼稚園の頃から冒険を描いた作品が大好きで、それは今でも変わらない。現実でも、ふと脇道に入ってみたり、唐突にバスや電車で終点まで行ってみたくなったりする。知らない道を歩くのも大好きだ。これはやっぱり、いくつになってもあのワクワクドキドキした感覚を味わいたいから。つまりそれだけ、絵本が与える影響は大きい。

 先日、そうしたワクワクする感覚を教えてくれて、さらにみんなで協力して1つのものを作り上げる楽しさも感じさせてくれる魅力的な絵本『野ばらの村のけっこんしき』(ジル・バークレム:著、こみやゆう:訳/出版ワークス)を発見した。この「野ばらの村」シリーズは、全世界で700万部以上売れているロングセラーで、もともと講談社から出版されていた人気シリーズを出版ワークスが復刻したもの。既に発売されている『野ばらの村のピクニック』と本書に加え、年内あと2点、来年4点刊行されるらしい。

 本書は、イギリスの美しい田園「野ばらの村」の中で心豊かに暮らすねずみたちの物語。表紙をめくるとそこには野ばらの村の地図が掲載されており、絵本内で起こる出来事がどこで行われているのかを確認しながら読み進めることができる。ねずみたちはこの野ばらの村でチーズやパンを作ったり、水車の近くで水しぶきを浴びたり、粉まみれになりながら小麦粉を作ったりしながら生活している。

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 そんなねずみたちの生活する様子が断面図として見られるのも本書の魅力だ。水彩で緻密に描かれたねずみたちの家はまるで迷路のよう!

 こうして素朴ながらも充実した毎日を送っている中、チーズ小屋で働くポピー・アイブライトと粉ひき小屋で働くダスティ・ダックウッドが結婚するという知らせが。村のねずみたちはそれを聞き、大喜びで結婚式の準備に取り掛かる。夏至まつりの日の結婚式を涼しい小川の上で行うため、ダスティは友だちと力を合わせて平らな木の皮を小川に浮かべ、イグサとイラクサで編んだロープで固定。ポピーも花嫁衣装に刺繍をするなどして、結婚式を心待ちにしながら準備を進めていく。

 そして当日。どの家のねずみたちも夏にぴったりの料理作り、かごいっぱいに野イチゴをつんだり、ワインを小川にひたしたりと大忙し。もちろんポピーとダスティは、それぞれ結婚式用の衣装に着替える。その後ダスティが少し“あること”をやらかすものの、それもまた愛嬌。結婚式は大盛り上がりとなった。

 新郎新婦はもちろん、参加者みんなで力を合わせて作り上げる結婚式は、思いやりややさしさ、2人への思いに溢れている。しっぽを持ってくるくるダンスを踊るシーンや、「新郎新婦のしっぽが長くなり、目はますますかがやいて、なきごえが小さくなることをいのって、かんぱい!」とねずみらしい乾杯の挨拶をする場面も。描かれるあちこちでねずみらしさや動物たちならではのゆるさ、自由さも垣間見えて、思わず参加したくなる。

 この『野ばらの村のけっこんしき』を読んでいると、大人ももっと純粋に楽しさやワクワクを追求する機会があってもいいのでは?と感じる。「豊かさ」というものについて、今一度考えてみたくなる。そういう意味では、子どもはもちろん、大人にもぜひ読んでほしい作品だ。今はコロナ禍で外出もなかなか難しいが、絵本があれば家にいながらいつだって冒険ができるし、いろんな世界を垣間見ることができる。この本で、久々に童心に返ってじっくりと絵本の世界に迷い込んでみては?

文=月乃雫

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