東野圭吾の人気シリーズ最新作『透明な螺旋』――ガリレオファンは驚くはず。東野ファンはもっと驚く……シリーズ最大の秘密とは?

文芸・カルチャー

公開日:2021/9/4

透明な螺旋"
『透明な螺旋』(東野圭吾/文藝春秋)

 天才的な頭脳で、どんな事件もクールに解決していく物理学者といえば、東野圭吾の描く「ガリレオ」シリーズの主人公・湯川学だ。福山雅治主演の実写化作品のイメージが強いかもしれないが、原作小説も人気は高く、シリーズ累計は1400万部超。いつだって冷静に物事を見つめ、論理的な思考回路で事件の真相に辿り着く湯川の姿には、多くの人が心奪われている。だが、「ガリレオ」シリーズ待望の第10弾の長編小説『透明な螺旋』(東野圭吾/文藝春秋)の湯川は、今までのシリーズとはどこか違う。「ガリレオ」ファンは、ページをめくるたび、何度も息を飲むのではないか。本作は、シリーズ最大の秘密が明かされる一冊。湯川の見たことのない姿に驚かされるに間違いない。

 物語は、房総沖で男性の銃殺遺体が見つかったことに始まる。警察の捜査線上に上がったのは、被害者の恋人。彼女は数日前に突然職場に休職を願い出た後、連絡がとれない状態にあるという。彼女は一体どこに行ったのか。その行方をたどるうちに、関係者として、天才物理学者・湯川学の名前が浮上する。学生時代からの湯川の友人である警視庁の刑事・草薙は、湯川のもとを訪ね、湯川は事件の捜査に協力することになるのだが…。

 この作品は、湯川の意外な姿を露わにする。たとえば、彼の家族構成・家庭環境。草薙が湯川を訪ねようとした時、湯川は大学にも自宅にもおらず、横須賀にある彼の両親のマンションに滞在していた。何だかこの作品の湯川は人間臭い。いつものイメージとは少し違うようなのだ。

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 当初は警察には協力しないと言っていたのに、突然態度を変え、事件の捜査に同行するようになる湯川。その姿もどうも普段の湯川とは異なるように映る。いつだって論理的な湯川なのに、どうしてこの事件に興味をもったのか、その理由は謎。もしかして、湯川はこの事件に深く関わっているのか。湯川のことを信じてもいいのだろうか。次第に明らかになる事件の真相と、湯川の過去。そして、事件関係者たちの抱える思いが溶け合い、混ざり合っていく。

 愛する人を守ろうとするのは罪なのだろうか。この本からは葛藤し続ける人間たちの思いが溢れ出る。湯川がずっと内に秘めてきた思いに胸が締め付けられるような気にさせられる。「ガリレオ」シリーズは、今までも人間の深層心理に深く切り込むような事件を描き出してきたが、まさか、湯川の心にまでメスが入れられようとは。この長編小説は、ガリレオの愛と哀しみが詰まった作品。今までの湯川の印象が変わり、ますます魅力的な存在として眼前に想像できた。「ガリレオ」シリーズに少しでも触れたことがあるならば必読。湯川の隠された秘密はきっと、あなたの心を震わせるに違いない。

文=アサトーミナミ

ガリレオシリーズ特設サイト
https://www.bunshun.co.jp/galileo/index.html

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