「廃バス」で暮らす美人教師の不思議感覚ストーリー。作品に流れるゆるやかな空気に癒される

マンガ

公開日:2021/9/14

廃バスに住む 1
『廃バスに住む 1』(イチヒ/KADOKAWA)

 コロナ禍で外出の自粛が叫ばれる中、自宅で楽しく過ごす工夫をしている人も多いようである。ベランダにテントを張ってみたり、押入れなどにいろいろと持ち込んで過ごしてみたりと、実にさまざまだ。まるで子供の頃に雑木林あたりで友人たちと作った「秘密基地」のようでもある。そしてもし、そういう「特別な空間」で暮らすことになったとしたら……? 『廃バスに住む 1』(イチヒ/KADOKAWA)は「廃バス」で暮らす、ちょっと不思議な美人教師の日常を描いたコミックだ。

 物語の主人公は雨森はづき。とある高校の教師で、学校でも評判の美人である。周囲からは憧れのまなざしを送られる彼女だが、実はかなり変わった性格の持ち主だった。どのくらい変かといえば、住んでいたアパートがトラブルで一時退去を余儀なくされ、急遽住み着いたのが空き地に放置された「廃バス」だったというくらいである。母親いわく「昔からどこか抜けてるし、運も悪い子だった」というはづき先生は、カラスに朝食をたかられたりしてしまうが、そんなこともどこ吹く風。今日も今日とて誰かの秘密基地だった廃バスから、学校へ通うのである。

 廃バスで暮らすはづき先生の日常は、実にマイペース。食事のメニューを玩具で決めてみたり、台風が来れば廃バスからホテルに避難したりと、その時々に合わせた行動でのんびりと過ごすのだ。炭で火をおこして料理を作り、バスの長イスでグッスリ眠る。基本的に廃バスでの暮らしは不便なのだが、そんなことは少しも苦にならないはづき先生なのであった。学校でもマイペースなのは同様で、授業が終われば生徒よりも早く帰ってしまうことも。英語教師ということだが、一体どんな授業をしているのか気になるところである。

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 はづき先生の風変わりな行動は、周囲を戸惑わせることもしばしば。かつて廃バスを「秘密基地」にしていた大家くんもそのひとり。はづき先生の生徒で、今でもたまに廃バスに足を運んでいたのだが、そこで偶然、先生が寝起きする姿を見つけてしまったのだ。なぜ先生が廃バスに住んでいるのか分からない彼は戸惑うが、いつしかはづき先生と廃バスで交流するようになり、ちょっとドキドキしながら先生との時間を楽しむことに。この感覚は、ちょっと分かるような気がする。私が学生の頃、先生ではなかったが教育実習に来ていた女性の家に遊びに行ったときの感じとよく似ているのだ。先生と一緒に、ちょっとだけ特別な時間を過ごしたことは、いつまでも記憶に残るものなのである。

 本作ははづき先生の「廃バス暮らし」を描いた、ちょっと不思議な感覚の物語。ただストーリーとしては、世界を揺るがすような事態が起きるわけでもなく、ただ先生の日常を淡々と追いかけるだけだ。それだけなのに、なぜか心惹かれてしまうのである。最近、ちょっと日常に疲れ気味という人は、本作の持つゆるやかな空気で、ぜひ癒されていただきたい。

文=木谷誠

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