おばけと人間は友だちになれる？ ひとりぼっちのおばけくんがひとりぼっちじゃなくなる物語が教えてくれること

　子どもって本当に無邪気ですよね。公園などに連れていくと、知り合いじゃなくても、いつのまにか一緒に遊んでいたりしますから。

　そんな子どもたちの無邪気な世界観のなかで、多様性って何？ 他者を受け入れる力って？ といったことを考えさせられる絵本が登場しました。絵本作家の新井洋行さんが描いた『おばけくんのハロウィン』（KADOKAWA）です。

　物語の主人公は、こどものおばけ、おばけくん。遊び相手がいなくていつもひとりぼっち。今日はハロウィン。子どもたちは仮装をしていろいろな家を回り、お菓子をもらっているようです。

　子どもたちの元気な声を、離れたところで聞いているおばけくん。その距離はとても遠くて、その距離の遠さがおばけくんの孤独さを物語っています。

　いつもは子どもたちに混じることがないおばけくんですが、この日だけは違います。みんな仮装しているので、子どもたちと一緒に遊んでも、おばけだということがばれないのです。

　ソーっと子どもたちに近づき、列の一番後ろへ。そして「トリック オア トリート！」と、子どもたちと一緒になって大はしゃぎ。

　ある家の前では、子どものうちのひとりが、お菓子の入れ物をおばけくんに渡してくれました。背中を押され、大人たちからお菓子を受け取るおばけくん。すっかりなじんでいるようです。

　ところが、ある家の前で「おかしをちょうだい！」と叫んだその瞬間。「バウバウ！」とおばけくんを見た犬が飛びかかりました。おばけくんは「ぎゃー」と飛び上がってしまいます。

　飴をたくさんもらってご機嫌な子どもたちですが、おばけくんはみんなに正体がばれていないかと心配でたまりません。

おばけくんがわが子に重なって思わず涙

　ひとりぼっちのおばけくんが、子どもたちをうらやましそうに眺める様子。みんなの後ろをドキドキしながらついていく姿。仲間に入れてもらって驚きながらも喜んでいる表情。同じような小さな子どもを持つ筆者としては、その姿をわが子に重ねずにはいられませんでした。

　わが子もまた、友だちの前ではこんなふうにドキドキしているんだろうか。ちゃんと輪の中に入れているんだろうか。そんなことを考え始めたら、もう涙が止まらない！ おばけくんの感情が揺れ動くたびに涙腺がゆるんでしまうので、親御さんは泣くこと覚悟で読んでくださいね。

　文章はシンプルで、すべてが説明されているわけではないのですが、絵の一つひとつから、おばけくんの感情の揺れや、子どもたちとの関係性の変化が伝わってきます。絵を見て楽しむ子どもは、おばけくんがどうして泣いているのか、どうして笑っているのかを、細やかに感じ取ってくれるのではないでしょうか。子どもたちの感受性も揺さぶられそうです。

他人を知ることは「違いを受け入れるため」でありたい

　この物語はまだ続きますが、その中に、「君が本当のおばけだってわかっていたよ」と子どもたちがおばけくんに伝えるシーンがあります。子どもたちは、おばけくんがおばけだとわかっていても、一緒に遊んでいたのです。けっして、怖がったり仲間外れにしたりするのではなく。子どもたちの無邪気さにハッとしました。

　いまは何も知らない子どもたちですが、いつまでも無邪気なままではいられません。成長するにつれて、さまざまな知識を学んでいきます。いずれは、考え方や立場、環境など、自分と他者との違いを知るようになるでしょう。そこで思うのは、違いを知ることが「他者を受け入れるため」であってほしい、ということです。それがけっして、仲間外れの道具にならないことを祈ります。傷つけられていい人なんて、誰ひとりいませんものね。

　仲良くするのに立場なんて関係ない。子どもの頃はみんなそうですが、そんな気持ちを大人になるまで持っていてくれたら素敵です。そのためにも、大人が偏った知識を植えつけることがないように、気をつけたいなと感じました。

　ハロウィンにはいろいろな意味があるようですが、おばけも人間も一緒になって遊ぶなんておもしろいですよね。多様性について、子どもに伝えるにはもってこいのイベントかもしれません。そのきっかけづくりに、この絵本『おばけくんのハロウィン』が役立ちそう。大人もまた、子どもたちの“他者を受け入れる力”を見習いたいものです。

文＝吉田あき

■『おばけくんのハロウィン』（KADOKAWA）
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