“優しいお笑い”って? ビッグ3からサンドウィッチマン、第7世代まで! 日本のお笑いの変容とは

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公開日:2021/9/14

すべてはタモリ、たけし、さんまから始まった
『すべてはタモリ、たけし、さんまから始まった』(太田省一/筑摩書房)

 今やニュース、クイズ、教養、バラエティと様々なジャンルのテレビ番組でお笑い芸人を見ない日はない。現在は「お笑い第7世代」と呼ばれる芸人たちが活躍し、我々を楽しませてくれているが、その「笑い」にこれまでとは大きな変化が表れているという。

『すべてはタモリ、たけし、さんまから始まった』(太田省一/筑摩書房)では、かつてはテレビの中の単なる娯楽であった「お笑い」が、我々の生活のお手本と実践までになりテレビから社会へと広まった現在の“笑う社会”を背景に日本のお笑いの変化に迫る。

 現在の「お笑い第7世代」という呼び方は、第1世代の頃から数えられてきたわけではなく、ダウンタウンやウッチャンナンチャン、とんねるずなどを中心とした新しいお笑いが登場した時に「お笑い第3世代」と呼ばれて始めてこの芸人世代論が一般化したという。

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 徒弟制度からピンでブレイクするまでの明石家さんま、下町の悪ガキとして育ち、学生運動下の新宿で芽生えた「偽善」への眼差しから「毒ガスギャグ」が生まれたビートたけし、自由人であり趣味人であることを貫き、人脈と密室芸で気づけばお昼の顔になっていたタモリ。この「お笑いビッグ3」それぞれの経歴は、社会の中で「お笑い」がまだメインストリームでなかった時代ならではの自由奔放なふるまいによるものだ。そしてデビューまでの様子は今のお笑いの世界を見慣れているととても面白い。また、ダウンタウンによる笑いの革新性にページを割き、彼らを核とした「第3世代」によって現在のお笑いのベースが作られたことにも触れる。

 しかしそれらのお笑い史以上に本書で興味深いのが、現在の「第7世代」がウケている「面白さ」の大きな変化についてだ。

 80年代までのお笑いは「一億総中流」意識の中、“皆が同じ”という考えを持っている”という前提で、意見や身体、嗜好の違いをネタに「ボケ」が生まれ、それを常識的に正す「ツッコミ」で笑いを取っていた。また、排除やいじめに受け取られかねない「いじり」というものからも“笑い”が生まれた時代だった(そのような社会の同質性への批判を「赤信号みんなで渡れば怖くない」と笑いにしたのがビートたけしだった)。

 しかし現在、「人を傷つけない笑い」と評されるサンドウィッチマンや、ぺこぱにおいてはシュウペイのボケを「そうとも言いきれない」と松陰寺が自己反省し、結果「ノリツッコまない」ことで笑いが生まれるなど、他者が自分と違うことを肯定する“優しいお笑い”へと変わってきていて、現在のお笑いは転機を迎えているという。

 多様性が叫ばれる中、貧困やセクシャリティ、ジェンダー、人種、民族に関わることなど、マイノリティの存在が様々なところで可視化されるようになってきた現在、お笑いの構造自体が変化し、お笑い芸人たちの模索が続いていることが本書から実感できる。またYouTubeやTikTokといったネット発信のお笑いの現在もカバーしており、お笑い自体の多様性にも驚くばかりだ。

文=すずきたけし

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