様々な予感に満ちた『水滸伝』シリーズ続編!

小説・エッセイ

公開日:2012/9/17

楊令伝 一 玄旗の章

ハード : PC/iPhone/Android 発売元 : 集英社
ジャンル:小説・エッセイ 購入元:BookLive!
著者名:北方謙三 価格:540円

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卓越した能力や、秀でた技術をもったひとりひとりが、その力を発揮できる場所をみつけ、様々にぶつかり合いながらも、ひとつに結集して、巨大な何かに立ち向かう。

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ゲームで言えば『ライブ・ア・ライブ』や『FF6』のラストでの全員集結のあの感じであり、
NHKでいえば『プロジェクトX』で田口トモロヲが「男たちは~」と語りはじめる時のあの感じであり、
漫画で言えば、『ハンターハンター』のキメラアント編での決戦前のあの1シーンであり、
小説で言えば、前作北方謙三版『水滸伝』のその魅力を何よりも体現していた。

腐敗しきった政治の横行する宋の国に立ち向かう梁山泊の漢(おとこ)たちの物語『水滸伝』を北方謙三はさらに細かい群像劇にした。それぞれのキャラクターたちが、自らの志や生き方について真剣に向き合いながら生きていき、その声のひとつひとつが梁山泊という場所に集積されてひとつの運動へと結びついていく様を緻密に描きだした。だから、北方版『水滸伝』は、こちらを熱くする何かでみなぎっている。どのキャラにも素直に感情をいれこんでしまう。革命の雰囲気を肌で感じさせる。そんな力にみなぎっていたシリーズだった。

今回の『楊令伝』はそんな『水滸伝』の続編だ。物語は梁山泊が陥落し同志たちが散り散りになった状態から始まる。

「かつて、梁山泊という、ひとつの国があった。(中略)その国には、まだ穢れを知らない理想があった。傑出した人間が、揃っていた。同志愛と呼んでもいいものに、満ちていた。」

しかし、負けたあとも彼らは諦めたわけではなかった。ひそかに蓄えていた銀を引き上げ、新たな土地を探し、着々と革命の準備は行われていた。しかし、「足りないものがある。その状態でひとつになっても、宋軍全体とはむかい合えない。つまり、勝てないんだ。」

1巻ではその「足りない」もの、梁山泊のメンバーをもう一度ひとつにまとめるのに必要なものを手に入れるために北の「金」とよばれる国を目指す。

前作『水滸伝』と同様、それぞれのキャラクターに視点が置かれ、どの人物がどんな気持ちで行動しているか、なんのためにうごいているのか、ひとつひとつが声としてたちあらわれてくる。そして、その声がやがてひとつに結びついていくのだろうという予感がそこかしこに漂っている。今はその予感にじっと耳をすませながら、主人公の到着を待つしかない。前作で水の中に飛び込んだ楊令は、果たしてどんな姿でわたしたちを出迎えてくれるのだろうか。


梁山泊なき後も腐敗した国家

前作から梁山泊はどう変わったのだろうか

北で大暴れしているという幻王の正体とは?