質の高い商品・技術だけでモノは売れない!? 作り手の“Why”が新たな価値となるプロセスエコノミーとは

ビジネス

公開日:2021/9/17

プロセスエコノミー あなたの物語が価値になる
『プロセスエコノミー あなたの物語が価値になる』(尾原和啓/幻冬舎)

 食品や、生活に欠かせない日用品、あるいは余暇を楽しむための嗜好品。これらを買うとき、アナタは何を決め手にしているだろうか。質・デザイン・価格・ブランドなどきっと人それぞれだろう。

 だが、これらの決め手には共通点がある。それは“モノ”に対しての価値を重視しているという点だ。「そんなの当たり前じゃないか!」と思うかもしれない。しかし、この当たり前の価値観が大きく変化しているという。

『プロセスエコノミー あなたの物語が価値になる』(尾原和啓/幻冬舎)では、完成形である商品ではなく、商品が生み出される過程(プロセス)に価値を見出す考え方を紹介。その原理や具体例、メリット・デメリットなどを詳しく説明している。

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“過程”に価値を見出す。正直、分かるようで分からない。そもそも、過程を売るということは、不完全なモノを売りに出すこと。商売としていかがなものか、と考えるのが普通だ。だが、世の中を見回せば、プロセスエコノミーという商売は増えてきていることが分かる。

 分かりやすいのが、クラウドファンディングという仕組み。「アニメを作りたい」「経営難の餃子屋を立て直したい」「開発した新商品を多くの人に販売したい」など、さまざまな目標を達成するために出資者を募る。彼らの情熱や想い、理念を応援したいという人がお金を出し合い、そのプロジェクトを成功に導く。これも成果物ではなく、その過程を支援するという点でプロセスエコノミーだ。

 実はアイドルも同じ。ファンは、アイドルの歌声やダンスに熱狂するだけでなく、アイドルが困難を乗り越え、一回りも二回りも大きく成長する過程、アイドルが持つストーリーに熱中する。ただの売り手と買い手ではない。ファンと声援を受ける人という関係でビジネスを展開する。それもプロセスエコノミーだ。

 本書では、そのメカニズムを紹介しており、その中で「What」「How」「Why」の3つの要素について説明している。「What」はアウトプットする商品やサービスの内容、「How」は商品を生み出す技術、「Why」が理由やこだわり、情熱など。

 What(商品)が良い、あるいは熟練された職人によるHow(技術)でモノを売る。これは従来のビジネスと同じだ。しかし、このビジネスモデルは新規参入が難しい。技術革新によって、商品の性能に大きな差が生まれることはなくなった。家電一つ取ってみても、ある冷蔵庫が劇的な性能で、カルト的な人気を誇るということはあまりないだろう。職人の技もある程度、機械で再現可能となってきている。もし、同じ質ならば安い方がいい。すると、価格が低いモノが人気となってしまう。

 そこでWhyに注目が集まる。ただモノを作るだけではない。「こんな想いで」「こんな情熱を持って」「こんな哲学を持って」……。そんな無機質ではない“人間くささ”がストーリーとなり、人々の目を引くプロセスとなるのだ。

 このプロセスエコノミーは本書曰く、企業・商品のイメージ戦略やスマートフォン市場、メルカリでの野菜販売、ゲーム実況、大統領選挙などでも利用されているという。まだ新しいビジネススタイルを今、まさに学ぶべき時ではないだろうか。

文=冴島友貴

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