『東京卍リベンジャーズ』は「超戦略的漫画」だった! PDCAで未来を変える!? 人気爆発の3つの理由

マンガ

更新日:2021/9/15

東京卍リベンジャーズ
『東京卍リベンジャーズ』(和久井健/講談社)

『週刊少年マガジン』(講談社)で連載中の漫画『東京卍リベンジャーズ』。コミックスは累計3200万部を突破。今年に入り実写化、アニメ化もされ、7月9日に公開された映画は、観客動員数317万人、興行収入42億円を突破し、今最も注目を集めている作品といえるでしょう。作者は、『新宿スワン』の和久井健先生です。

【冴えない日々を送る27歳のフリーター・タケミチ。ある日、テレビのニュースで中学時代の恋人・橘日向(ヒナタ)が、犯罪組織“東京卍會(まんじかい)”の抗争に巻き込まれて死んだことを知る。翌日、駅のホームから転落したタケミチは、12年前の中学時代にタイムリープしていた。ヒナタを救うため、タケミチはヒナタの弟・ナオトと共に、未来を変えるための過酷なミッションに挑んでいく。】

 というように本作は、主人公が12年前に戻って過去をやり直し、未来を変えるというタイムリープ作品です。ただし、未来を変えるためには、暴走族チーム東京卍會、通称東卍(トーマン)に入って、手強い不良どもと渡り合わなければなりません。

 さらに、ヒナタの死はただの巻き込み事故ではなく、東卍に意図的に殺されていたという謎も加わってきます。

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 つまり『東京卍リベンジャーズ』は、〈不良×ファンタジー×ミステリー〉と、3つの要素をあわせ持つ作品なのです。同じジャンルの作品が今まであったかと考えてみましたが、『サイコメトラーEIJI』(安童夕馬:原作、朝基まさし:作画/講談社)以外、思い浮かびませんでした。

「3つも要素があるなんて、なんかややこしそう!」と思うじゃないですか。でも、大丈夫なんです。『東京卍リベンジャーズ』は性別関係なく、子どもから大人まで楽しめる内容になっています。それはこの作品に、読者を置いていかない&飽きさせないための、仕掛けが隠されているからなんです。

(1)PDCAサイクルで未来を変える

 複雑な設定なのにわかりやすいのは、タケミチとナオトが、PDCAサイクルに則って未来を変えているからです。PDCAサイクルとは、業務管理における継続的なフレームワークを意味するビジネス用語です。整理していきたいと思います。

 まず、タケミチに課せられた最大のミッションは、タイムリープして12年前に戻り、「東京卍會の佐野万次郎と、稀咲鉄太の2人が出会うのを阻止する」こと。

 そのためには、東卍の総長である佐野万次郎こと、マイキーに接触しなければなりませんが、タケミチにとって、東卍のトップは雲の上の存在。どうしたらマイキーに会えるのか? 考え抜いたタケミチは、ある答えを導き出し、マイキーと接触することに成功。ミッションをクリアします。

 その後、タケミチが現代に戻ると、状況は少し変化していました。タケミチがマイキーと接触したことで、未来が変わったのです。ナオトとともに、変わった未来を検証していくのですが、なんと事態はタイムリープする前よりも悪化していたことがわかりました。

 未来を変えるため、タケミチに課せられた次なるミッションは、「東卍のNo. 2であるドラケンを救う」こと。ドラケンを守るため、タケミチは再びタイムリープするのでした。

 このミッションを、PDCAサイクルに当てはめると、

Plan(計画)=マイキーと接触する
Do(実行)=※コミックスでご確認ください
Check(測定・評価)=未来は悪化していた
Action(対策・改善)=12年前に戻り、ドラケンを救う

 こんな感じになります。残念ながらタケミチは、P、Dまでは上手く行くものの、なかなかCに結びつきません。思うように未来が変えられないのです。ナオトとAを練り直し、Pへ戻る、を何度も繰り返します。

 PDCAサイクルを取り入れても、未来はなかなか良くなりませんが、おかげで読者が置いていかれることはありません。物語のルールを最初に提示してくれるので、何回タイムリープしても、混乱しないで読み進められます。幅広い世代が楽しめるように、こんな工夫が取り入れられているのです。

(2)謎が謎を呼ぶ、圧倒的な臨場感

『東京卍リベンジャーズ』は、基本的に、主人公のタケミチ視点で物語が進行します。読者は、タケミチと同じタイミングで、各キャラクターから情報を受け取り、物語の秘密に迫っていきます。

 一般的な推理漫画と同じ仕組みに思えますが、決定的に違うのは、『東京卍リベンジャーズ』は第1話の時点で、結末=“ヒナタが死ぬ未来”がわかっているところです。さらに、2話目には、諸悪の根源がマイキーと稀咲鉄太であることも判明します。

 しかし、タケミチには、どうしてもマイキーが凶悪な事件を引き起こす人物には思えません。タケミチと読者は同時に思います。「なぜ、マイキーは凶悪な人間になってしまったのか?」

 ひとつの謎を解こうとすると、新たな謎が浮上していく…『東京卍リベンジャーズ』が圧倒的臨場感のある作品になっているのは、次々謎が増えていくから。そして、その情報を読者とタケミチが共有できているからなのです。

(3)キャラクターがとにかく最高

『東京卍リベンジャーズ』の登場人物は、ほぼ不良です。さらに、暴走族チームがいくつも出てくるので、キャラクターの数がめちゃくちゃ多いです。しかし、多すぎるということがありません。

 なぜなら、キャラクターひとりひとりに、しっかりとしたバックストーリーがあるから。極悪非道なキャラクターだと思っていたのに、そうせざるを得ない切実な事情があったと知ると、簡単に嫌いとは言えません。

 もし登場人物が大人だったら、また違う感想を持ったかもしれませんが、この作品の主要人物は中学生。思春期の子どもたちが抱える心の不安定さも、物語に強く影響しています。

 とにかく、一度読んだ者同士が出会えば、必ず「推しメンは誰だ」という話題になると思うので、そんな視点で読んでみるのもおすすめです。

 ちなみに、タイトルの『リベンジャーズ』が複数形であることからもわかるように、リベンジするのは、タケミチだけではありません。かつて大きな失敗や間違いを犯した人物が、12年をかけて大人になり、それぞれの形でリベンジしていきます。その姿がまた感動。大人になった彼らが、どういう形でリベンジするのかも注目です。

24巻

 最新刊24巻は、9月17日(金)発売予定。ついに最終章に突入です。「もう、23巻も出てるのか。読むの大変だなぁ」なんて心配は無用です。読み始めたら止まらないし、頑張れば3日で読めますので、ぜひ一緒に、リベンジャーズしましょう。

文=中村未来(清談社)

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