実の娘に殺されたはずが、30年前に戻っていた!? 悪逆を尽くした侯爵夫人の、やり直し快進撃!

文芸・カルチャー

公開日:2021/9/16

悪役一家の奥方、死に戻りして心を入れ替える。
『悪役一家の奥方、死に戻りして心を入れ替える。』(丘野優:著、TEDDY:イラスト/KADOKAWA)

 できる限り後悔のない人生を送りたい。おそらくほとんどの人がそう思っているはずだが、生きていると、何かに夢中になるあまりほかが見えなくなったり、大切なものを忘れてしまったりする。でも、もし「二度目」であったなら――。今の記憶を持ったままあの頃に戻れたら、きっともっとまわりを見ることもできるのだろう。『悪役一家の奥方、死に戻りして心を入れ替える。』(丘野優:著、TEDDY:イラスト/KADOKAWA)は、そんなことを考えずにはいられない物語。

 本作品の主人公は、一度目の人生で悪逆を尽くしてきた侯爵夫人のエレイン・ファーレンス。エレインは国家転覆を企て、結果それに失敗して娘であるリリーに殺されてしまった――はずだったのだが。気がついたら30年前の、4人の子どもを産む前へと戻っていた。長男であるジークハルトの出産中に戻った彼女は、娘に殺されるというバッドエンドを回避すべく改心し、前の人生で培った知識や経験を活かして「神の定め」に抗う決意をする。

 エレインは、幼馴染でもある侍女アマリアの気遣いに感謝し、夫クレマンを助け、魔術を使いこなせるよう腕を磨き、農村の実態を把握するため現地に赴いた。現地では執事のクレマーとともに頭から堆肥をかぶり、自らゴブリン軍勢の殲滅を遂行。周囲は、そんなエレインの行動や変化に驚きつつも、次第に彼女の見方を変えていく。

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 また、一度目の時には殺してしまった親友・伯爵夫人セリーヌの持つ能力《予言》を、今度は道標にしようと誓う。そしてセリーヌに、自分は50歳くらいで一度死に、30年遡った20歳として二度目の人生を生きていること、かつて国家転覆を目論み彼女を殺してしまったことを打ち明け、今度は殺したりしないと約束した。こうして、大切な親友をちゃんと味方につけたのだ。

 エレインは、こうして一歩ずつ一歩ずつ、前世で犯した過ちを打ち消していく。リリーに母親殺しをさせないために、全力で「神の定め」に立ち向かっていく。なるべく無駄な争いを起こさないよう先手を打って「交渉」による解決を目指し、周囲に気を配って仲間を増やし、子どもたちとの時間もしっかり取って地盤を固めていく。

 そんなエレインを見ていると、一見まるで運命であるかのように見える出来事も、実は自分自身が続けてきた行いの結果であることが多いと気づかされる。もちろん普通の人間は記憶を持ったまま二度目の人生を送ることなどできないが、本書でエレインの行ないを追うことで、“一度目”の代わりを果たしてくれるような気がする。「人間らしさ」をなくさず、それでいて客観的視点も持って主体的に動くことで、変えられることはたくさんありそうだ。

 普段あまりライトノベルを読まない、普通の転生モノに飽きてきた、という人でも、この『悪役一家の奥方、死に戻りして心を入れ替える。』ならしっかりと読後の満足感を得られるのではないだろうか。セリフと地の文のバランスが良く、ラノベ慣れしていない人でも雰囲気を掴みやすいのも魅力的。これを一冊読み終わった頃には、“二度目”のエレインのように、目の前の世界が変わって見えるかもしれない。

文=月乃雫

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