魔法を使えない魔女の娘は、月額9万8000円で魔力を借りて魔法学園に入学する――リアリティたっぷりの魔女っ子成長物語

文芸・カルチャー

公開日:2021/9/22

魔女の娘
『魔女の娘』(冬月いろり/メディアワークス文庫/KADOKAWA)

 魔法のレンタル料金は月額9万8000円。

 高名な魔女の娘として生まれながら、魔法を使えない少女・帆香は、魔法をレンタル契約して憧れの魔法学園へ入学する。しかし、魔力を持たない“失くし者”であることが早々にばれてしまい、周囲から冷ややかな目で見られるように。そんななか生徒たちの魔力が奪われる怪事件が発生。帆香は、魔法レンタル屋の息子でクラスメイトの千夜と共に、真相究明に乗り出す――。

『鏡のむこうの最果て図書館』(電撃文庫/KADOKAWA)で、第25回電撃小説大賞《銀賞》に輝きデビューした冬月いろりさん。あたたかみのある世界観と、キャラクターの成長を丁寧に綴る筆致、ファンタジーでありながらリアリティある設定で、多くの読者の心を掴んでいる。

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 新作『魔女の娘』(メディアワークス文庫/KADOKAWA)は現代の日本を舞台にした、これまでにない現実的(?)な魔女っ子成長物語だ。

 なんといっても月額9万8000円という魔法レンタルの価格設定が、絶妙にリアルである。加えて作中に出てくる魔法は「火をつける」「グラスの中に水を出現させる」といったもので、科学技術が発達しきった現代においてどれだけ便利かは、はなはだ疑問だ。

 そんな読者の疑問を代弁するかのように、物語の序盤で学園長は帆香に問う。

「それでも、魔法を学ぶ価値があると思いますか?」

 魔法使いを扱った数多くの作品で、意外にも見落とされがちな視点がここにある。

 火をつける。明かりを灯す。病を治す薬を調合する。かつては重宝がられていた魔法のほとんどは、すでに文明の力に追い越されてしまった。そんな現代社会に在りて、魔法と魔法使いに存在意義はあるのだろうか?

 世知辛いとも、現実的ともいえるこの視点が、本作品に独自性を与えている。

 そして、それでも魔法を学びたいと切望する帆香のひたむきさを、いっそう際立たせる。

 彼女にとって魔法とは、“流浪の魔女”の称号を持つ母の娘として生まれたことの、証のようなものだ。自らも立派な魔女になることで、少しでも母に近づきたい。その思いが帆香を突き動かしている。

 この帆香と合わせ鏡のような存在が、“野良魔女”の母親を持つ少年、千夜だ。

 魔法使いは魔法学園に進学するのが当たり前といわれるなかで、千夜の母はそうせずに独学で魔法を極めた。しかも魔力を貸し出すビジネスを行っているため、魔法界では変わり者として通っている。そんな母に千夜は反発し、自分は学校でしっかり魔法を学び、誰にも後ろ指をさされないような魔法使いになろうと決意している。

 母のような魔女になりたい帆香と、母のような魔法使いにはなりたくない千夜。この2人が、知らず知らずのうちに影響を与えあい、成長していく姿が細やかに綴られる。

 とりわけ夏休みの夜、ペルセウス座流星群が流れる空を帆香と千夜が箒で飛ぶシーンは心に残る。どんなに文明が進歩しても、身体ひとつで自由に空を飛ぶことは魔法使いだけの領域だ。手が届きそうなほど星の近くを飛びながら、帆香は幸福を感じる。自分は魔女だ、とささやかな自信を持つ。

 第3部以降の後半では、魔法を食べる怪物との闘いと、帆香のうちに秘められていた謎が解き明かされてゆくアクション&ミステリー的展開も加わり、最後まで読者を惹きつけてやまない。“魔法使いもの”というジャンルを新たな視点で見つめ直した、新機軸の学園魔法ファンタジーだ。

文=皆川ちか

『魔女の娘』作品詳細ページ
https://mwbunko.com/product/322102000001.html

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