アジアを熱狂させた中国発BLファンタジー、日本上陸!『魔道祖師 1』

文芸・カルチャー

更新日:2021/9/29

魔道祖師 1
『魔道祖師 1』(墨香銅臭/フロンティアワークス)

 アニメやラジオドラマ、実写ドラマの再生回数はシリーズ累計110億回超、アジアを熱狂させている中国発ブロマンスファンタジー『陳情令』の原作BL小説が、2021年5月、ついに日本に上陸した。日本語版となる『魔道祖師 1』(墨香銅臭/フロンティアワークス)は、先行するメディアミックス作品を楽しんでいた日本のファンにも熱く迎えられ、同時発売された1巻・2巻は、発売前重版となり、発売当日は買い求める人々でSNSが盛り上がったのは記憶に新しい。

 舞台は古代中国──邪気を打ち払う仙術が存在し、それを扱える者はみなから羨望のまなざしを向けられる世界。残虐非道と人々から恐れられた大悪党・魏無羨(ウェイ・ウーシエン)は、正道とはいえない呪術陣の類の扱いに長け、「魔道祖師」と呼ばれていたが、みずから作り出した邪術の反動を受け千万の鬼に生きながら噛み砕かれたとも噂される、凄惨な最期を迎えることになる。だが、それから13年の時が経ち、彼は思いがけない復活を果たした。術者の肉体を差し出し悪鬼邪神を召喚する禁術、「献舎」をされたのだ。

 魏無羨に体を捧げた術者の名は莫玄羽(モー・シュエンユー)。父が去り、母を亡くした莫玄羽は、莫家の伯母と従弟にいびられていた。おそらく彼は、召喚した魏無羨の力を使って、莫家の者たちに復讐したいのだ。その証拠に、魏無羨の腕には、献舎のせいでできた傷があった。莫玄羽の願いを叶えなければ決して治らないその傷は、いずれ肉体ばかりか魂までも引き裂いて、生まれ変わることさえできなくなってしまう。

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 魏無羨は莫玄羽の願いを叶えてやるべく動き出すが、ちょうどそのころ莫家には、仙術修行における名門の一派が滞在していた。雅で正しいことを是とし、揃いの白衣を着込んだ少年たち──藍(ラン)氏の一門だ。彼らは、莫家の周囲をうろつく低級の屍変者を討伐しにきたらしい。生真面目な藍氏の少年たちを見て、魏無羨は、前世の自分と文武を競ったひとりの男を思い出す。自由で快活な魏無羨とは正反対の、品行方正にして寡黙、氷のような瞳を持つ、美しい藍氏の第二公子のことを。しかし一方で、藍氏の少年たちが討伐すべく誘き寄せたものは、尋常でない残虐さを持つ邪祟だった。

 少年たちは一門に助けを求めるが、救援を待つあいだにも、莫家の者たちは次々と無惨な死を遂げてゆく。正体を隠し過去と決別したいと考えていた魏無羨は、派手な力を使うことを控えていたが、腕に刻まれた呪いの傷がある以上、莫家周辺を離れることもできない。なりゆきで屍を操り、少年たちを助ける魏無羨だが、それ以上の力を使うと正体が判ってしまうと躊躇したまさにそのとき、遠く空の彼方から、聞き覚えのある琴の音が聞こえた。古琴を奏でることで邪祟を退けたのは、藍忘機(ラン・ワンジー)──魏無羨が前世で幾度となく衝突した宿命の相手、藍氏の第二公子だったのだ。

 少年時代と同じく、魏無羨の軽薄な態度を嫌うだろうと思われた藍忘機だが、再会した彼はどうしてか、魏無羨をそばに置こうとする。まさか戦いぶりを見ただけで、魏無羨の正体に気づいたのだろうか。疑惑を抱えながらも近い距離で過ごすうちに、魏無羨は藍忘機と学んだ少年時代を回想し、「なんでこんなに変わってしまったんだ?」と彼の変わりように困惑する。他方、莫家を襲った邪祟は、引き続き各地で起こる怪異に関係しているようだった。魏無羨と藍忘機は、邪祟が引き起こす怪異を追いながら、さらに距離を縮めていくのだが……。

 魏無羨と藍忘機、2人の関係もさることながら、本作の魅力は、その圧倒的なスケールだ。魅惑の舞台・古代中国、妖異を討つ仙術、その仙術を修行する血族・世家(せいか)のせめぎあい、時を超え運命的に巡りあう魂──硬軟取り混ぜて豊かに構成された世界観の中、縦横無尽に暴れまわる魏無羨らを眺めているうちに、まるでその世界の住人になったかのように、彼らの息づかいが聞こえてくる。

 どんな状況でもみずからの正義を貫くには、想いを貫くにはいかに在るべきか。この第1巻は、とてつもなく壮大な物語の、まだほんのはじまりにすぎない。アジアを席巻した世界観に巻き込まれ、2人の想いと生き様のゆくえを見届けたい。

文=三田ゆき

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