才能がなくても、「好きという情熱」で自分を変える。オールナイトニッポン元チーフディレクターのラジオ愛と仕事論

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公開日:2021/9/26

アフタートーク

著:
出版社:
KADOKAWA
発売日:
アフタートーク
『アフタートーク』(石井玄/KADOKAWA)

「実は私も、ラジオ好きなんですよ」

 このひとことで共犯関係のようなものが生まれ、お互いが聴いている番組を確かめ合う。ラジオ好きが出会ったときの恒例行事だ。本だって、テレビだって、映画だって同じかもしれないが、「ラジオが好き」というだけで、「同じ作家の小説を愛読していた」くらいの親近感を覚えてしまう。ラジオはマイナーなメディアだという思い込みがあるからかもしれない。でも、最近はそうでもないらしい。にわかにラジオ人気が高まっていると、よく聞くようになった。

『アフタートーク』(石井玄/KADOKAWA)は、そんなちょっとしたラジオ人気の仕掛け人のひとりとも言える、オールナイトニッポン元チーフディレクターの石井玄さんによる初エッセイだ。オードリー、星野源、佐久間宣行、アルコ&ピース、三四郎など、人気パーソナリティの番組でディレクターを務めていた石井さんが、ラジオに向き合ってきた10年間を振り返っている。

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 番組作りの裏側や、人気パーソナリティの素顔、名物スタッフの仕事ぶりなど、ラジオ好きにはたまらないエピソードはもちろんのこと、仕事のスピード、数字の取り方など、社会人やこれから働く学生にとっても参考になる話が300ページものボリュームでつづられている。

「生きていていいんだよ」ラジオに背中を押された青春時代

“漠然と「死にたい」と思っていた自分に、「こんなにくだらないことを言っている大人もいるんだから、君も生きていていいんだよ」と言ってくれたように感じた。”

「自分には何もない」と無気力な青春を過ごしてきた石井さんは、ラジオパーソナリティの言葉に救われ、ラジオの世界に憧れを抱くようになったという。ぼんやり過ごした高校時代、挫折続きの大学時代、就職もバイトもしなかったニート時代と、青春時代という長いトンネルの中をとぼとぼ歩いてきた石井さんが、ラジオという光を見つけて走り出すまでの青春ドラマに胸が熱くなる。

 そして、うっかりお笑い芸人を目指しかけるほど迷走しつつも、「ラジオを作る人になろう」と心に決めてからは、これまでとは打って変わって積極的に動き出す。バイトに励み、専門学校に入り、一番前の席で授業を受ける姿に、「人間、夢という原動力でここまで変われるものなのか」と驚かされた。

「天才じゃない自分にできることとは?」才能に頼らない仕事のやり方

 念願のラジオディレクターになってからも、人気はあったはずの担当番組が突然終了してしまうなど、さまざまな挫折を経験する石井さん。しかし、「番組を終わらせない」という新たな目標を定めてからは、そのためにできることを考え、実行に移すようになっていく。

「仕事ができる人のマネをして、時間をかけてでも血肉化する」、「自分ができないことに時間を使わず、さっさとほかの人を頼る」、「番組を終わらせないために自分の熱意を周囲に伝え、行動する」。天才の武勇伝とは違い、石井さんの仕事論は失敗から学び、現状をクールに分析した、地道でロジカルなものばかり。

「才能がない人間にできることは何か」と考え続ける姿勢は、ラジオの世界で働く人だけなく、どんな業界で働く人にも響くはずだ。

 とはいえ、仕事論も形だけマネできるものとは言えない。あらゆる行動の裏に、「ラジオを盛り上げたい」という熱い思いがあるからだ。オールナイトニッポンのチーフディレクターになったときも、当時、聴取率でリードされていた裏番組の「JUNK」に勝つという大きな目標を立て、自身とチームを鼓舞している。

“優勝を目標に置かない限り、優勝はない。ビッグマウスと言われて叩かれても、大きな目標を掲げて自分を奮い立たせることは、大舞台では重要だ。”

「自分には才能がない」と綴られている。だが、心から「好き」になったものに対し、突っ走ることは大きな才能だと感じる。本の中でテレビプロデューサー・佐久間宣行さんの「企画書はラブレターだ」という言葉が紹介されているが、この本は、石井さんがラジオに宛てたラブレターでもあるのかもしれない。

文=後藤亮平(BLOCKBUSTER)

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アフタートーク

著:
出版社:
KADOKAWA
発売日:
ISBN:
9784046805904