アボカドは鳥に危険、トマトから超音波? 植物の「びっくりな秘密」を紹介する植物図鑑

暮らし

公開日:2021/9/30

ほんとうはびっくりな植物図鑑 ありふれた草花の秘密がおもしろい!
『ほんとうはびっくりな植物図鑑 ありふれた草花の秘密がおもしろい!』(稲垣栄洋:監修、下間文恵:イラスト、石井英男:文/SBクリエイティブ)

 小学生の頃にやった朝顔の観察のように、毎日眺めていれば植物が生きているということを実感できるかもしれないが、忙しい日々の中では、季節の移り変わりさえも、気がついたらいつの間にか過ぎていることが多い。景色の一つとしか認識していない自分の感覚を寂しく思いつつ、そんな私が、「なにそれ!?」「マジでっ!?」と童心に返って愉しんだ、『ほんとうはびっくりな植物図鑑 ありふれた草花の秘密がおもしろい!』(稲垣栄洋:監修、下間文恵:イラスト、石井英男:文/SBクリエイティブ)を紹介したい。

 ウォンバットのタロくんと相棒であるオカメインコのピーちゃんが、木の先生から植物について教えてもらうというスタイルの本書のイラストを手掛けているのは、『ざんねんないきもの事典』の下間文恵氏。ゆるふわな絵柄によって多彩な植物の生態を視覚的に分かりやすく見せてくれる。解説文は、小中学生向けのプログラミング関係の本を執筆してきた石井英男氏が簡潔かつ要点を押さえているうえ、監修を雑草生態学の専門家である稲垣栄洋氏が務めているため、タイトルに有るように図鑑として申し分ない。

あの食べ物に、そんな仕掛けが?

 別に私は食いしん坊ということはないけれど、やはり食べられる植物は馴染み深い。ナス科のトマトも「世界中で栽培されているおなじみの野菜」で、与える水を減らしたほうが実が甘くなるという。そして水を減らしていたトマトに水を与えると、茎の中を流れる水の流れで微細な空気の泡が破裂し、超音波が発生するそうだ。水を減らされるのはトマトにとってストレスであるから、その様子を本書では「喜びの超音波」と表現していた。ただし、水を減らしすぎるとストレス過多で木が弱くなってしまう。

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 植物に音楽を聞かせると生育が良くなるという話を見聞きした人もいると思うが、本書によればブドウに音楽を聞かせたところ「成熟が早く、果実の味や栄養もすぐれている」ことが分かったとする研究は本当にあるという。影響を受けるのは根の部分だそうで、「低周波(100Hz~500Hz)」を含む音楽が適しているらしい。ちなみに、ブドウはつるに近いほうが甘いとのことで、「下(つるから遠いほう)から食べると最後までおいしく食べられます」といった豆知識も本書の随所にちりばめられている。

気をつけよう! 毒になったりならなかったり

 名前から毒草と誤解されることもあるドクダミの名前は、「毒を矯(た)める」(毒を抑えるという意味)が由来だそうで、水虫などの原因となる白癬菌や食中毒の原因であるブドウ球菌を殺す成分を持ち、薬草としての評価が高いのだとか。怖いのは、紅葉が美しく庭木や盆栽として目にする機会の多い、ニシキギ科のマユミと呼ばれる落葉低木。果実が熟すと皮が4つに割れて赤い種が顔を出し、美味しそうに見えるが人間が食べると毒なのに、鳥には無毒で種が運ばれ繁殖する。この反対に、人間が美味しく食べるアボカドの実は「人間以外の動物には猛毒」となり、特にインコやオウム、文鳥などのペットとして飼われる鳥がこの毒に弱く、「アボカドの加熱調理中に出た煙で、飼っていたインコが死んでしまった」という事例もあるそうだ。

 鳥や虫に食べられる無農薬野菜は安全で美味しいといった言説があるけれど、どうもそう単純な話ではないようだ。道ばたや荒れ地などに自生していて雑草と呼ばれるヒメムカシヨモギは繁殖力が強く、代表的な除草剤の一つであるパラコートへの強い抵抗力を持つものも発見されている。なるほど、人間の知恵を超えてくる。

頭脳は無いのに頭脳派

 生存競争を生き抜くための知恵くらべ、ということでは、植物にも機転がきくものがいるようだ。日本では北海道以外に分布している多年草のイノコヅチが、天敵であるイモムシに仕掛ける対処法など実にユニーク。イモムシが食べる葉に成長を促す成分を忍び込ませ、その葉を食べたイモムシは「通常より早く脱皮を繰り返し、十分な葉を食べずに成虫のチョウやガになってしまいます」というから、なかなかの策士だ。しかも、「早く育った成虫は小さくなってしまい、卵を産む力がありません」とのことで、なんだか恐ろしいくらいである。

 策士ぶりは、16世紀の終わり頃に日本に入ってきたトウモロコシも負けていない。天敵であるアワヨトウの幼虫に葉をかじられると、トウモロコシは「アワヨトウの天敵となるカリヤコマユバチを呼び寄せるにおい」を放ち、カリヤコマユバチは「アワヨトウの幼虫に卵を産みつけて」しまうのだとか。本書ではそれを、「敵の敵は味方」作戦と呼称していた。

 本書には他に、ネズミなどの小動物を食べてしまうウツボカズラなど、まるでモンスターのようなワクワクする植物たちも収録されている。植物は哺乳類や昆虫とは違うけれど、びっくりするような能力を携えて生きてるんである。それも、しぶとくしたたかに。

文=清水銀嶺

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