可愛い「愛芽」(まなめ)たちとの触れ合いに癒される。でもそれだけじゃない、「命」と向き合う物語

マンガ

公開日:2021/10/5

まなめ観察日記 (1)
『まなめ観察日記(1)』(小野寺こころ/小学館)

 コロナ禍によって、人との接触が敬遠される現在。他者との関わりが薄くなれば、他者への関心が薄くなっていくのも道理である。これは多分、道徳教育にとってはよくないことなのだろう。せめて動物が近くにいれば違うのだろうが、飼育できる環境のある家庭も限られそうだ。そこで、もしもすべての家庭において生育可能な、人の感情を理解できる「何か」があったとしたら──。『まなめ観察日記(1)』(小野寺こころ/小学館)は、人工的に作られた「愛芽」(まなめ)を育てる中学生たちの姿を描いたハートフルストーリーである。

 とある世界の日本では、中学2年生になると道徳教育の一環として「愛芽」が学校で配られる。愛芽とは人工的に作られた「植物」で、手のひらサイズだが人を模した姿かたちをしており、植物栽培用の鉢で育成するのだ。愛芽を育てることによって、優しさや思いやりを学ぶきっかけとすることが目的である。現在の日本でも、一部の学校では動物飼育が行なわれているが、考えかたはそれに近いものだと思っていいだろう。愛芽は非常に愛くるしい姿をしており、中学生たちの保護欲をかきたてずにはいられない。本作はそんな彼らと愛芽たちの日常を通して、人間にとって大切な多くのことを学んでいく物語なのである。

 愛芽にとって少年少女たちは親のようなもの。親として、まず彼らがやらなければならないのは、名前を付けることだ。名付けにはそれぞれ個性が出る。たとえばパンジーの愛芽に名付けられたのは「寅之助」。理由は黄色と黒がトラの色で、強く育ってほしいから。他ではホヤ・カーリーという植物の愛芽には「たけし」という名が。「『たけし』って顔してたから」なのだとか。変わったところでは、オリヅルランの愛芽の名を「鶴月水」(つつみ)と名付けた少女。鶴の字と「見た目がホストっぽい」というのが理由だ。……源氏名か。

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 中学2年生の生徒たちはまだ人生経験も浅く、愛芽を育てるのにも試行錯誤の連続だ。水・肥料の与えかたや、どのくらい日に当てればいいのかなど、生徒それぞれのアプローチによる育成が行なわれる。その過程で、愛芽に対する愛情の与え方や、友人たちとの情報共有といったコミュニケーションを学んでいくのだ。もちろん時には失敗もしてしまうが、愛芽専門の保健医いわく「間違えたり失敗したりして学ぶためにつくられた命」であるため、普通の植物より愛芽は強く作られているのだ。そしてこの「つくられた命」ということが、重要な意味を持つのである。

 実はこの愛芽たち、中二の生徒たちが修了式を迎えるとき、土に還る宿命なのだ。つまり愛芽とのお別れは必ずやって来るわけで、別れが辛くなるからと愛芽に名前を付けない生徒もいる。この第1巻ではそこまで描かれないが、いずれ来る別れに生徒たちはどう向き合うのか。愛芽たちは確かに可愛い存在だが、ただ可愛いということだけを本作は描いていない。大事な存在との触れ合いと別れ──このいずれもが道徳教育なのである。「愛芽ロス」になる生徒も出るという中で、果たして彼らは愛芽から何を学ぶのか。私も作中の先生になった気持ちで、見届けたいと思ったのである。

文=木谷誠

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