表現者として二刀流に挑む平野歩夢。東京オリンピック出場後、今思うこと

スポーツ・科学

公開日:2021/10/11

Two-Sideways 二刀流

著:
出版社:
KADOKAWA
発売日:
Two-Sideways 二刀流
『Two-Sideways 二刀流』(平野歩夢/KADOKAWA)

 東京オリンピックで新競技として注目を集めたスケートボード競技。4歳でスケートボードを始め、小学2年生のとき、天才スケートボード少年として取り上げられたテレビ番組では「スノーボードとスケートボードの世界一になりたい」とコメントを残した平野歩夢選手。弱冠15歳でソチオリンピックの銀メダルに輝き、平昌オリンピックで2大会連続の銀メダルを獲得してから、9カ月後。平野選手は「同じタイミングで始めた競技。オリンピック種目になってしまった以上は、スルーするわけにはいかない」という言葉と共に二刀流挑戦を宣言した。

 同選手の前人未到の挑戦を追ったドキュメンタリーエッセイ『Two-Sideways 二刀流』(KADOKAWA)が9月24日に発売された。世界との壁、コロナ禍での葛藤、東京オリンピックの延期、そして次に控える北京オリンピックへの思いなど、同書ではべールに包まれた約3年間の歩みを、未公開写真と本人のコメントと共に振り返っている。今回はその一部を紹介したいと思う。

表現者として二刀流に挑む平野歩夢

2022年。限界の先を目指して

2022年。限界の先を目指して

 二刀流を宣言した当初、平野は「他人が辿り着けないようなことを夢にしたい。誰も経験していない自分にしかできないことを表現したい」といった発言をすることが多かった。しかし、東京オリンピックを目前に控える時期になって、その内容が少し変わってきた印象がある。話の中に「子供たち」や「未来」というワードが頻出するようになったのだ。

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「3年間二刀流にずっと打ち込んできたことで、先のことが少しずつ見え始めてきたのかもしれません。まだ知りきれてはいないけれど、始めた頃よりもわかってきたことがたくさんあって、だいぶ考えやすくなってきました」

 最初は「誰もやっていないこと」という、シンプルに自分自身への挑戦がきっかけではあった。しかし手探り状態で二刀流に挑戦し続けるうちに、この表現を通して自分がなにをどのように伝えたいのか、ようやく考えられる気持ちになってきたのだと言う。

「スポーツだけじゃなくて何事も本気で打ち込んだときって、やり切る勇気が持てなかったり、やりたくない気持ちになってしまう瞬間が必ずあると思うんです。本気であればあるほど、やっても無駄かもとか、どうせ俺なんて失敗するに違いないって気持ちは湧いてくる。もしも、誰かがそんな気持ちや立場になったときに、俺の今回の挑戦がちょっとでも力になってくれたら嬉しい」

シンプルに自分自身への挑戦がきっかけではあった
やりたくない気持ちになってしまう瞬間が必ずある

 どこか遠いところですごいことをやっている他人、で終わらせるのではなく、自分自身の現実に置き換えて考えてみるきっかけになってほしい、と平野は続ける。

「もう少し頑張ってみようとか、なにか夢が持てたとか、周りの人にそう思ってもらえるのが俺にとっては一番。でもそのためには、まずは俺自身がいかに表現してみせるかがなにより大事。その結果、子供たちに『平野歩夢を追い越したい』と思われる存在になれたら最高ですね。俺も子供の頃にそう思えた存在がいて、それが大きな力になったからこそ、今の自分がいるので」

 持っているものを全て出し切り、横乗りや競技の魅力をさらに広めたい。兄弟や家族、身近な人やその先にいる人にまで、力を与えられるようなパフォーマンスを見せたい。そんな気持ちを胸に臨んだ東京オリンピックでは、残念ながら上位8人で争う決勝の舞台に進むことは叶わなかった。しかし、スノーボード仕込みの高いエアや540もメイクし、持ち前のアグレッシブな滑りを披露。世界最高の舞台に立ち、全力でプッシュし続ける姿は、大きな興奮と感動を呼んだ。

「楽しく滑れたので、この経験を次に生かしていきたいなと思います。悔いなく終われました」

 試合後のインタビューで見せたやりきった表情も印象的だった。

 年齢や人種の壁を軽々と飛び越えるスケートボード競技の魅力は、画面越しに多くの視聴者に届いたのだろう。オリンピック後、全国のスケートボード教室には子供たちが殺到しているらしい。スケート施設や設備の不足がメディアに取り上げられるなど、平野の挑戦が日本のスケートボードを取り巻く環境に大きな一石を投じたことは間違いない。

 そして、休む間もなく次なる挑戦は始まっている。北京オリンピックの開催予定は、東京から半年後の2022年2月。残された時間は短いが、今日も変わらずどこかで平野は限界まで努力を積み重ね続けているに違いない。

 2大会連続銀メダリスト、22歳という脂の乗り切った年齢で迎える北京オリンピックでは、堂々金メダル候補の1人。この大会は、二刀流として挑む平野の集大成的大会と考えるのが一般的だろう。ところが話を聞いてみると、そこさえも彼にとっては通過点でしかないらしい。

「北京オリンピックで終わりとか、まったく考えていないです。俺は『自分の人生において』という基準で、スノーボードもスケートボードも両方ずっともがきつづけたいし、走り続けられるところまで走りたい」

 二刀流への挑戦を経て、世界のトップに居続ける原動力である求道者的姿勢に加え、チャレンジャーとしての気持ちを取り戻した平野の見据える先は驚くほど広い。

「なんなら10年後も滑り続けて、若い子達の力になるような姿を見せられたらと思います。将来振り返ったとき、ここはまだ始まったばかりだったと思えるように、これからも自分の世界で戦い続けていきたい」

 平野歩夢の挑戦をめぐる物語は、まだ序章に過ぎない。

平野歩夢の挑戦をめぐる物語

写真=篠﨑公亮

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KADOKAWA
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