憧れのインフルエンサーの抱える葛藤と欲望…SNSの光と闇が残忍な事件を巻き起こす衝撃ミステリー

文芸・カルチャー

公開日:2021/10/9

フェイク・インフルエンサー
『フェイク・インフルエンサー』(白鳥あずさ/ポプラ社)

 今を生きる私たちは、毎日SNSを使っているうちに、誰もが自己顕示欲を飼い太らせている。増減するフォロワーの数に一喜一憂。もっとみんなに認められたい。もっと自分のことを見てほしい――そんな思いを過度に募らせていった先、一体、どのような未来が待ち受けているだろうか。

『フェイク・インフルエンサー』(白鳥あずさ/ポプラ社)は、そんなSNSの光と闇を描き出した物語。SNSをきっかけに巻き起こるトラブル。立て続けに起こる連続強姦殺人事件。背筋をゾクゾクとさせられる衝撃のミステリーだ。

 主人公は、ガールズバンドのメインボーカルとして活動している叶多。彼女は、SNSへの積極的な投稿で着実にファンを増やす、3万人のフォロワーをもつインフルエンサーだ。幼くして両親を失った叶多にとってバンドのメンバーは家族同然。バンドの人気も上り調子で、彼女はとにかくこのバンドにすべてを賭けていた。だが、複数のレーベルから声がかかった矢先、ネットニュースに叶多の過去についての暴露記事が掲載されてしまう。叶多は過去に二度の整形を経験している。一度目は事故の怪我を治すため、もう一度は美しさを手に入れるため。そんな暴露記事が裏アカで公開した写真を元ネタに作られていることに気づいた叶多は、犯人がバンドメンバー内にいると確信。犯人捜しを始めようとする。だが、そんな時、立て続けにメンバーが強姦殺人事件に巻き込まれてしまう。どうしてこんな卑劣な事件が起きるのか。次に狙われるのはもしかして自分…? SNSの光と闇が、連続殺人事件の恐るべき真相とともにあぶり出されていく。

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 物語の前半の叶多のバンド活動の描写は圧巻。骨髄を振動させるようなドラムの打撃音。ベースの生み出す低音のうねりと、ギターの高音域の連譜。それをまとめるようなキーボードの和音。そして、ボーカルがつむいでいくきらびやかな主旋律…。出身地も生活環境も全く違うタイプの人間たちが音楽を手掛かりに繋がっていくさまに気持ちの昂りを感じずにはいられない。だが、だからこそ、後半の不穏な事件の数々には、崖から突き落とされたような恐怖を感じさせられるのだ。

 その事件の鍵となるのは、叶多の存在。この作品からはインフルエンサーとして生きる叶多の叫び声が聞こえてくるかのようだ。インフルエンサーが抱える悩みと葛藤、そして欲望が随所に溢れ出ている。たとえば、叶多はフォロワーが減るたび、皮膚を裂かれるような痛みを感じている。数字が戻れば、その傷は一時的には治癒するが、心はかさぶただらけ。どうすればもっと多くの人に見てもらえるようになるだろう。もっと自分を認めてもらうにはどうしたらいいのだろう。さらに、叶多は整形して綺麗になった今の自分を認めてもらいたいという思いとともに、昔の自分のことも認めてもらいたいという思いも膨らませていく。どんどんSNSにハマっていく叶多。SNSがとんでもない事件のきっかけになるとは、本人は気づいていないのだろう。

 この物語はミステリーであると同時に、ホラーでもある。それも決して他人事にはできないような身近な恐怖を描き出すから恐ろしい。SNSの世界は楽しいし、それにのめり込む叶多の姿に共感さえしてしまう。だからこそ、巻き起こる事件にゾッとさせられてしまうのだ。私たちだって、事件に巻き込まれる可能性も、事件を起こしてしまう可能性も決してゼロではない。そう思うと震えが止まらなくなる。

 身近な恐怖にゾクゾクさせられる驚愕のミステリーをあなたも体感してみてはどうだろうか。もしかしたら、明日は我が身? SNSにハマっている人必読の一冊。

文=アサトーミナミ

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