愛する家族がいるのになぜ? 激増する「盗撮」の知られざる実態――『盗撮をやめられない男たち』

暮らし

公開日:2021/11/11

盗撮をやめられない男たち
『盗撮をやめられない男たち』(斉藤章佳/扶桑社)

 先ごろ新機種が発売されたアップルのiPhone。世界中で使われているが、マナーモードで写真を撮っても「カシャッ」とシャッター音が出るのは日本と韓国で販売されている機種だけだそうだ。この音はアップルのサウンドデザイナーだったジム・リークスの仕事によるもの(懐かしのMac起動音“ジャーン”も彼の仕掛けだ)で、実はこのシャッター音が消せない仕様は、盗撮防止が目的(他メーカーの携帯電話も同様)だ。

 精神保健福祉士・社会福祉士として、アルコールや薬物、痴漢、万引きなど様々な依存症治療に取り組み、当事者からのヒアリング等を行っているソーシャルワーカーの斉藤章佳氏の新刊『盗撮をやめられない男たち』(扶桑社)によると、盗撮事件はここ10年で激増しているという。盗撮事犯の検挙件数は2010年に1741件だったが、2019年には3953件、なんと2倍以上に膨れ上がっている。しかも盗撮は表面化しない暗数が多いので、この何倍も検挙されない盗撮事犯がいて、それをはるかに上回る被害者がいるのだ。

 しかも10代、20代と若いうちから手を染めてしまう人が多く、専門のクリニックでの治療に至るまでの平均年数は約7.2年、その間に膨大な枚数の盗撮を繰り返すことになる。日常的にカメラを持ち歩く人が少なかった(またサイズの問題、音の問題も含め)20世紀であれば、存在しなかった理由だ。

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 本書は最初に駅構内・電車が盗撮多発スポットであるなど、身近で起きている盗撮被害についての実態が紹介されている。続けて日本でなぜこれほど盗撮が多発しているのか、なぜ盗撮という行為に及んでしまうのかが解説される。斉藤氏による当事者へのインタビューでは、愛する家族がいるのに続けてしまう、やめようと思いながら再犯してしまう人たちの言葉がとても生々しい。そして再犯率が4割と高いのに現行の刑法では裁けず、実刑になりにくいという司法の問題点の指摘、再発を防ぐにはどのような方策があるのか、また加害者家族の苦しみも書かれている。

 最後の章では斉藤氏と弁護士との盗撮罪についての対談がある。様々な盗撮の手口や実情に唖然とし、どこからが盗撮となるのかの線引きが難しいこと、現在の状況に法や仕組みが追いついていないことがよく理解できるだろう。今後、法制化への議論が進むことに期待したい。

 また、斉藤氏はあとがきでこう書いている。

 盗撮は、なにも変質者が引き起こす犯罪ではありません。盗撮加害者を単なる社会の異常者として扱うのではなく、その背景にある社会的・文化的問題へと考えを巡らせ、議論することが私たちに求められているのです。

 盗撮問題を正しく理解し、加害行為を見逃さずに検挙へつなげ、その後の適切な治療へとつなげていくためにも、激増する「盗撮」の実態を解き明かしているのが本書なのである。

文=成田全(ナリタタモツ)

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