相田裕最新作『勇気あるものより散れ』――時は明治、会津武士の生き残りが不死の少女に仕え母殺しという修羅道をゆく!

マンガ

更新日:2021/10/12

勇気あるものより散れ
『勇気あるものより散れ』(相田裕/白泉社)

 時は明治、会津藩士の生き残り・春安は大久保利通暗殺に参加するが、不死の力をもつ謎の少女に返り討ちにあう……。この『勇気あるものより散れ』(白泉社)は、『1518! イチゴーイチハチ!』(小学館)以来となる相田裕氏の連載作品だ。

 前作は学園青春ストーリーだったが、本作は不死という運命に抗う少女と、死に場所を求める元・会津藩士が相棒として戦う物語で、相田氏の過去作である『GUNSLINGER GIRL』(KADOKAWA)にも似た、激しく、そして悲しいバトルが展開される。

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会津の鬼と呼ばれた男が不死の少女と出会う

 明治7年(1874年)、鬼生田春安(おにうだ はるやす)は新しい時代に移りゆく東京にいた。彼は会津で“鬼九郎”と恐れられた凄腕の剣客だった。

 彼は戊辰戦争で会津が新政府軍に降伏し、家族全員が死んだ後も、箱館で最後まで戦った。そして他の侍たちと同じように銃や爆薬には太刀打ちできず、病院で目を覚ましその後赦免されていた。

 廃刀令の噂も出て、いよいよ自分の居場所はないと感じる春安は、元旗本(将軍家直属の武士)の娘である菖蒲(あやめ)たちによる、薩摩出身の内務卿・大久保利通の暗殺計画に手を貸す。彼は死を覚悟して大久保の馬車を襲う。

勇気あるものより散れ
©相田裕/白泉社

勇気あるものより散れ
©相田裕/白泉社

 だが大久保の護衛についていた美しい娘・九皐シノ(きゅうこう しの)が彼に立ち向かってくる。生死をかけた勝負が一瞬で決まる、斬り合いのシーンは、作中たびたび描かれ、一見の価値ありだ。

勇気あるものより散れ
©相田裕/白泉社

 シノは腕利きであったが、春安はそれ以上に強く、彼女に致命傷を与えた。しかし彼女の傷はふさがり、その髪が黒から銀(しろかね)に変化する。彼はひるんだ隙に逆襲を受け、瀕死の重傷を負った。これでようやく死ねる、と笑顔の春安に、シノは「あなたを生かします」と伝えて自分の血を飲ませる。

 彼女は不死の一族“化野民(あだしののたみ)”の話をした。彼女はその化野民の母と人の間に生まれた“半隠る化野民(はたかくるあだしののたみ)”だと言うのだ。春安は自分の傷がみるみる治っていくのにぼうぜんとする。「あなたはもはや私と一蓮托生の身…私の目的に協力してもらいます」とシノは告げ、最後にこう締めくくった。

私の目的は母を殺して自分も死ぬことです

 こうして死を求める2人が出会い、共に戦う相棒となった。

命をかけて修羅道を歩む2人の行く末は

 化野民は徳川幕府(今は新政府)と盟約を結び、彼らの庇護を受ける代わりに不死の力を使ってきた。為政者たちは、不死者である“半隠る化野民”を増やすため、数百年間にわたってシノの母・三千歳(みちとせ)を孕ませ続けてきたのだ。しかしついに三千歳は気が触れてしまったとシノは言う。

 悲しい負の連鎖を断ち切るため、母を安らかにするために、シノは不死者である母と自分を殺せる唯一の武器・妖刀「殺生石」を求めていた。

 春安が彼女の眷属(けんぞく)にされたのはその助けになるためだった。再び死に損ねた春安は、たとえ目的が母殺しという修羅道であっても「命は使うものだと思い出した。さあ命じてくれ」と生き生きと言う。仕える主君、生きる目的、すべてを失っていた彼は、今は大義を得たのだ。

勇気あるものより散れ
©相田裕/白泉社

 化野民の体香は人をひきつけ、惑わすという。シノは少し照れたように言う「春安!私に欲情してはいけませんよ!」「主(あるじ)にそんなことはせん」と春安。「信じましょう」とシノ。

 ひりひりする戦いの狭間で、主と眷属のこのようなほのぼのする場面も。会津の男子は戸外で婦人と言葉を交えてはならぬという掟があり純情である。鬼と呼ばれた春安がシノに魅了される描写も実にいい。相田氏がこれまでも描いてきた “恋にならない想い”は本作の魅力の一つだ。ちなみにシノは幼く見えるが天保(1831~1845年)の生まれで、春安よりずっと年長なのだが。

 シノと春安の前に立ちふさがるのは明治政府、不死の兄弟とその眷属たち……。2人は本懐を遂げられるのか。虐げられた会津の者が望む死という救い。為政者の意のままになってきた化野民の、呪われた生の終焉。彼らの終わりが幸福であることを望み、読む手が止まらない。

文=古林恭

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