個性に尊さを感じたらマニアへの第一歩!? 読んだら必ず見上げたくなる、ディープすぎる電柱ガイドブック

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更新日:2021/10/11

電柱マニア
『電柱マニア』(オーム社:編、須賀亮行:著/オーム社)

 遠出控えが長引き、自宅やその周辺でいかに楽しむか悩んだ人も多いだろう。外出しづらい状況のなかでストレス解消として散歩を習慣化した人も多いはずだ。とはいえ近所の同じようなルートばかりだとさすがに飽きてしまう。だが、ちょっと視点を変えて歩いてみると、いつもと違う景色が見えてくるかもしれない。

 そんな自宅近くの散歩のお供にしてみてほしいのが、ディープなマニア本『電柱マニア』(オーム社:編、須賀亮行:著/オーム社)だ。

 本書は、人気テレビ番組『マツコの知らない世界』(TBS)に出演した際、その熱い電柱愛を披露してネットをザワつかせた須賀亮行氏が手掛けた一冊。電柱の歴史や構造、見分け方などが詳しく解説されており、個性豊かな1本1本をマニアックに深く楽しめる電柱ガイドブックとなっている。

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■木製からコンクリート、そして無電柱化され始めた電柱の歴史

 私たちの日常風景の中に溶け込んでいる電柱は、電気を送るという重要な役割を果たしているにもかかわらず、邪魔者扱いされることが多く、実際、無電柱化も進んでいる。

 しかし、その一方で、電柱に心奪われた「電柱マニア」が多いのも事実。例えば、人気アニメ『新世紀エヴァンゲリオン』の庵野秀明監督もその一人で、いわれてみると庵野氏が手掛けた作品には電柱や電線が多く描かれていることに気付かないだろうか。描写にリアリティーを持たせつつ、特に日本人にとって情緒的な心象風景を表現してくれるアイテムだといえる。

 とはいえ、いつも近くにいすぎてその大切さに気付かれない、幼なじみキャラ的な存在・電柱。マニアたちは一体どこに魅力を感じて虜になるのか……。それは、その1本に詰まっている歴史と個性が尊いからだ。

 電柱と言えば、コンクリート製のものが頭に浮かびやすいが、実は今のような鉄筋コンクリート柱が作られ始めたのは大正12年頃だとか。それまでは杉やひのき、ひば、くり、とど松などといった木材で作られた「木柱(もくちゅう)」が一般的であり、明治20年から昭和30年代にかけては電柱に電線を張るために取り付けられる「腕木」という棒にも木が使われていたという。

 今の形が当たり前だと思っていた電柱にも深い歴史がある。そう知ると、ノスタルジックな木柱が日常に溶け込んでいた風景もリアルで見てみたかった……と少し残念な気持ちになった。

 日本では、高度経済成長期に電力需要が急増したことや地中に埋めるよりも外に柱を立てて電線を張ったほうが安上がりだったことから電柱の数が増加。現在では、約3,592万本もの電柱が全国に設置されているという。

 しかし、平成28年に防災や景観美化などの観点から無電柱化の推進に関する法律が成立し、無電柱化が進んでいる。実際、東京都では主要な都道や国道、駅前、観光地などが無電柱化されてきているようだ。

 もしかしたら、そう遠くない将来、電柱は公衆電話のようにあまり見かけないモノへと変わるかもしれない。そう気付くと、じっくり見られる今のうちに思う存分、「電柱観察」をしてみたくはならないだろうか。

■電柱は意外と個性豊か!

 電柱なんて、どれも同じと思っている人はきっと多いはず。だが、実は電線の張り方や電線を支える腕金(うでがね)の形、変圧器の取り付け方などがそれぞれで違っており、個性豊かであることを本書は解説する。

電柱マニア

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 例えば、腕金。電線を支えるパーツのことで、著者いわく、腕金には1本棒のほかにDアームやFアームなどアルファベットのような形をしたものがあるのだそう。

電柱マニア

 例を挙げると、Dアームは高圧配線類を建物から引き離すために縦に配置する場合や周辺環境への美化対策として使われている。

電柱マニア

 対して、Cアームには主に地方で普及しているという特徴が。

電柱マニア

 種類は大きく分けて「角型」と「半円型」の2つ。腕金の横の長さは「短い」「普通」「特大」の3サイズだという。

 そして変圧器の取り付け方は、土台を用いて取り付ける、ハンガーというパーツを使って変圧器を吊り下げて固定する(ハンガー装柱)、土台を使わないで取り付ける、の3パターンが代表的。

電柱マニア

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 ハンガー装柱は東京電力管内では昭和35年から40年頃に普及していたものの、現在では廃止。ただし、中部電力管内では今も活躍中なのだとか。

 なお、近年では無電柱化の推進に伴い、従来とは違ったタイプの電柱も出現しているそう。

電柱マニア

 電柱が貴重な存在となっていく過渡期の今は、その愛を育むなら絶好のタイミングともいえる。本書で得た知識をもとに、電柱に注意してアニメを観たり、自宅近くに立っている電柱を見上げたりしてみたら、これまで自分でも気がつかなかった電柱マニアの世界へとつながる扉が開くかもしれない。

文=古川諭香

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