テレビアニメ『鬼滅の刃』無限列車編第1話、そのクオリティの背景とは?

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公開日:2021/10/12

※この記事は第1話の内容を含みます。ご了承の上お読みください。

鬼滅の刃
(C)吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable

 新たな旅が始まる。

 2019年4月から放送され、大きなムーブメントを呼んだTVアニメ『鬼滅の刃』竈門炭治郎 立志編。2020年10月には『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』が公開され、2021年10月からいよいよ待望のTVアニメ新作の放送が始まった。

 最初に放送されたのは劇場版・無限列車編のTVアニメ版。その第1話は完全新作であり、原作コミックスでは描かれていなかったエピソードが、アニメオリジナルストーリーとして放送された。

 その内容は、鬼殺隊最強の剣士のひとり、炎柱の煉獄杏寿郎が、鬼が潜むといわれる無限列車へ乗り込むまでを描くというもの。『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』が空前絶後のヒットを遂げ、大人気キャラクターとして「400億の男」となった煉獄さんの日常的な一面を描く、無限列車編の前日譚的なエピソードとなっている。

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 煉獄さんという苛烈な人物のひととなりは、『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』をご覧になったファンならば十分にご存じのことと思うが、実は原作コミックスにおける彼の出番はごくわずかだ。

 筆者が調べたところでは、『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』でアニメ化された原作コミックス第7巻、第8巻を除けば、煉獄さんの登場話数は第5巻の第44話、第45話、第46話、第47話、第48話の5話のみ。鬼と戦う人間たちの組織・鬼滅隊の最強の剣士たち・9人の柱が集合し、主人公の竈門炭治郎と鬼になった禰豆子の処遇を決める「柱合会議」が催されることになった。その会議に炎柱として煉獄さんが初登場する。

 煉獄さんは、ほかの柱とともに、鬼となった妹を連れている炭治郎を厳しく断罪しようとする。「鬼を庇うなど明らかな隊律違反!」「鬼もろとも斬首する!」と厳しいセリフを常に瞳を見開いたまま、炭治郎に言い放つ彼はまさに冷徹な剣士そのもののように見えた。

 そして、第7巻、第8巻を除いた、原作コミックスにおける煉獄さんの登場総コマ数はわずか19コマ(回想シーンは除く)。セリフの吹き出し数は12言、総文字数でわずか135文字(「……」を含む)である。
 あまりに短く、あまりに少ない。

 はたして彼は普段の任務ではどんな行動をしていたのだろう。鬼殺隊の隊員たちにどのように接していたのだろう。牛鍋弁当以外の食事をしているときはどんな表情で食事をしていたのだろう。そんな煉獄さんの日常の行動やささやかな心の動きをもっと見たくなる。『鬼滅の刃』ファンの我々は、原作コミックスの行間から、『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』でカメラが映していなかった時間から、妄想をふくらませ、キャラクターの在りし日の姿を思い浮かべるしかなかった。

 10月から始まったTVアニメ無限列車編の第1話「炎柱・煉獄杏寿郎」は、そんな煉獄さんの日常が垣間見えるエピソードになっていた。おろし蕎麦をすする煉獄さん、あんパンをかじる煉獄さん、どこかズレているような、だけど常に真剣な彼の言動が印象的だった。

 第1話「炎柱・煉獄杏寿郎」の脚本を担当していたのはufotableだ。

 ufotableとは、TVアニメ『鬼滅の刃』シリーズを手掛けるアニメーション制作会社である。これまでも彼らは自社が制作するさまざまな作品において、ufotable名義で脚本を手掛けてきた(2011年『Fate/Zero』、2014年『Fate/stay night[Unlimited Blade Works]』などでこの表記が見られる)。これまでアニメ『鬼滅の刃』を制作し、原作コミックスの機微をかみ分けてきたスタジオがストーリーを手掛けることで、原作コミックスの世界からはみ出ない、『鬼滅の刃』らしいエピソードを紡いだといえるだろう。とくに今回のエピソードでは、主人公の竈門炭治郎を一切登場させていない。原作コミックスの領域を尊重した、オリジナルのエピソードといえる。

 ufotableというスタジオでは、このように脚本から映像制作、そして作品にまつわるグッズ開発・販売まで行っている。アニメ制作の川上から川下まで、一気通貫的に関わる力を持っているスタジオだ。アニメの制作スタジオにはいろいろなスタイルがあるかと思うが、脚本段階から映像制作に関わり、撮影処理をも行ったほぼ完成映像までを作ることができるスタジオは、実は国内でも数少ない。

 その中でさらに、ufotableの特徴として、CGを制作する部署、背景美術を描く部署、そして撮影をする部署を社内に持っていることが知られている。本来、CGや美術、撮影といったセクションは専門性が高いため、多くのアニメ制作会社は専門の会社に外注していることが多いそう。しかし、ufotableは演出や作画のみならず、いわゆるデジタル系のスタッフを社内に組み込むことによって、作品としての統一感や均一感を出そうとしているのだそうだ。

 また、ufotableが制作面で特徴的と考えられるのは、主な制作ラインが基本的に1本である、ということだ。彼らはひとつのTVシリーズ、ひとつの映画を全スタッフで作り、それを完成させてから、次の作品に向かう。そのため決して多作ではないが、彼らが生み出した作品を観ると、それぞれが安定した品質の映像になっていることが伝わってくる。

 アニメーション制作は、TVアニメを1話作るだけでも100人以上のスタッフが関わると言われる。しかし、TVアニメは何話も同時に並行して制作しなくてはいけないため、どうしてもひとつの会社だけで作ることは難しい。協力する制作会社やフリーランスのスタッフを100人単位で確保し、分業していかないと、作品はできあがらない。多くを分業すれば当然、統一感は失われ、完成物の品質にはバラつきができる。その点、ufotableはなるべくインハウスで制作し、外注するパートを絞り込むことで、高品質な作品を手掛けているのである。

 たとえばその効果は、『鬼滅の刃』の登場人物たちがまとう着物の柄を見れば、よくわかるのではないか。竈門炭治郎、我妻善逸の着物の柄はすべて手描きだが、どんなアクションをしても柄の模様は崩れず、乱れない。これは、スタジオのスタッフが徹底して模様を崩さないように作画しているからこそ、実現している映像なのである。

 ufotableが一丸となって臨む、TVアニメ『鬼滅の刃』新シリーズ。これから始まる旅の行方が楽しみだ。

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