30歳からでも夢を追っていいですか? 三十路のシェアハウスで繰り広げられる大人の青春ストーリー

マンガ

公開日:2021/10/14

三十路病の唄
『三十路病の唄』(河上だいしろう/芳文社)

 社会人になって何年か経つと、だんだんと先が見えてくる。数年後、給料は少しだけ上がっているかもしれないが、やってる仕事はあんまり変わらないんだろうな……。そう思うと、今の人生でいいんだろうか。自分にはやりたいことがあったんじゃないか。がんばりすぎず、“うまくやる”ことが勝ち組な雰囲気のある世の中で、正反対の道を歩むことは容易ではない。

 あなたの心の中に、少しでも「やりたいこと」への未練があるのなら、『三十路病の唄』(河上だいしろう/芳文社)を読んでほしい。物語は、30歳になるひとりの男が、夢のために会社を辞めるところから始まる。彼のあだ名は、ラスボス。夢は、“プロゲーマーで食べていく”ことだ。しかし、30歳という年齢は、世間からすれば“現実を見る年齢”。ラスボスも、退職の理由を後輩に伝えると、「今年いくつですっけ?」と鼻で笑われてしまう。

三十路病の唄

 シェアハウスで暮らすラスボスの周りには、同窓会で意気投合した、同じような境遇で夢を追う同級生たちが住んでいる。自分の店を持つために料理の修業をしている「おかん」。才能のなさを感じながらも、好きな人のために芸人を目指す「こぎり」。共通するのは、ひと握りの人間しか実現できない夢を持っていること。そして、夢を追うには遅いと思われがちな“30歳”という年齢だ。

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三十路病の唄

 この“同級生でシェアハウス”という設定が絶妙にいい。ひとつの業界で夢を追う作品は多いが、シェアハウスなのでいろいろな価値観を持つ住人が集まり、さまざまな業界の現実を覗くことができる。ゲーマーにはゲーマーの、芸人には芸人の、才能の差を感じる瞬間や、アツくなれる瞬間がある。それに加え、同居人同士が互いの言葉や行動に影響を与え合い、成長していくのも見どころだ。さしづめ、三十路のテラスハウスといったところだろうか。

 ラスボスは、さっそくゲーマーになるために動き始めるが、やはり現実はそう甘くはない。第1巻では、腕試しのためにオフラインで行われるゲーム大会に参加する。参加条件なしのアマチュア大会だが、そこには日本ランキング1位のトップゲーマー・現役女子高生「AKIら」が来ていた。ラスボスはある理由で彼女と対戦することになるが、圧倒的な実力差を目の当たりにする。若き才能を前に、ラスボスは何を思うのか……。

三十路病の唄

三十路病の唄

「おかん」や「こぎり」ら、シェアハウスの面々も壁に直面する。実力の問題だけでなく、精神的な面でもだ。シェアハウスで料理の修業をする「おかん」は、結婚した職場の同期と偶然再会した際、「夢見すぎ」ときっぱり言われてしまう。場の空気を読むのが苦手な売れない芸人「こぎり」は、大御所芸能人に真正面から才能のなさを指摘される。「これ以上人生棒にふっちゃだめ」「芸人辞めな」――。その言葉は意地悪ではなく、一面の真実を捉えているところがつらい。

三十路病の唄

 30歳から夢を追う。それは周りが冷笑的になるのも当然なくらいに大変な道のりなのかもしれない。10代で頭角を現すほどの才能はなく、一直線で努力を続けてきた者よりも後れを取っている。仮に芽が出たとしても、それが長く続く保証はどこにもない……。先の見えない真っ暗な道を、いつか明かりが見えると信じて歩き続けるようなものだ。それでもあがく彼らの姿は、あなたの心の奥底に届くだろうか。

文=中川凌(@ryo_nakagawa_7

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