過酷な中学受験の裏側を描くマンガ『二月の勝者』―― 受験塾のゾッとする実態とは?

マンガ

更新日:2021/10/15

二月の勝者
『二月の勝者』(高瀬志帆/小学館)

 少し前まで、大学受験ドラマが話題でしたが、この秋は、中学受験に注目が集まりそうです。10月からスタートする柳楽優弥さん主演のドラマ『二月の勝者』は、私立中学合格を目指す親と子どもと、塾講師たちが織りなす、リアルすぎてちょっと怖い受験物語。週刊ビッグコミックスピリッツで連載中の高瀬志帆先生の同名漫画が原作です。

 舞台は東京の受験塾。業績不振にあえぐ「ビミョーな中堅塾」の桜花ゼミナールに、救世主としてやってきた黒木蔵人。業界最大手の名門中学受験塾で、カリスマトップ講師をしていた黒木は、着任早々、新6年生たちに「絶対に全員を第一志望に合格させる」と宣言します。

 ところがその裏では、塾はあくまで営利目的であり、子どもたちは「新規顧客」、お金を落とす親は「スポンサー」だと言い切るのです。

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「指導」に情熱を感じている新人塾講師の佐倉麻衣は、そんな黒木の考え方に異議を唱え反発します。しかし、黒木が子どもや親の不安を解消していくのを間近で見て、少しずつ考え方を変えていきます。果たして、桜花ゼミナールは、子どもたち全員を志望校合格へと導けるのでしょうか?

 東京に住む小学6年生は、約10万人。そのうち、中学受験をする児童は約2万5000人いるそうです。つまり、4人に1人が中学受験をしていることになります。そこからさらに上位校を目指すには凄まじい競争を勝ち抜かなければなりません。失敗したら後がないので、親も子も、死にものぐるいで塾に食らいつきます。

 一方塾側も、黒木の言うようにボランティアではありません。生徒の数と合格実績が売り上げに直結、ひいては講師の進退にも影響するので、綺麗事は言っていられないのです。いかに集客してお金を落とさせるかに腐心しています。

 合格を夢見る親子の裏で、受験塾がやっていることとは? 黒木率いる桜花ゼミナールの経営戦略をこっそりご紹介しましょう。

受験塾の実態その1 裏用語「お客さん」

 成績最下位のRクラスの担当になった麻衣は、子どもたちの成績をなんとか上げたいと奮起します。しかし黒木から、「お客さんに一生懸命になるな」と釘を刺されるのです。塾業界の裏用語、「お客さん」。これが意味するのは、「とりあえず通って、授業料だけ落としてくれればいい」という生徒のこと。

上位校合格の見込みのない生徒には、夢を見させ続け、生かさず殺さず、お金をコンスタントに入れる「お客さん」として、Rクラスには「楽しくお勉強」させてください。

 塾も営利目的なので致し方ないこととはいえ、黒木の辛辣な言葉に、麻衣は絶句します。ちなみにドラマ版で麻衣を演じるのは、井上真央さん。黒木との掛け合いが楽しみです。

受験塾の実態その2 転塾

 塾側にとって、生徒の流出、すなわち「転塾」は一大事です。特に、トップクラスの成績の子どもは、合格実績に大きく関わるので、転塾を防ぐことは塾にとって重要な課題でもあります。

 桜花ゼミナールの優秀者選抜クラスに通う前田花恋も、転塾を考える一人。さらなる成績アップを目指し、名門フェニックス塾に入ることを決めます。金の卵である花恋を失うことは、桜花ゼミナールにとってかなりの痛手であるにもかかわらず、黒木は動こうとしません。

 実は黒木は、フェニックスに転塾した花恋が、授業についていけず挫折することを予見していました。案の定、黒木の思惑は当たり、花恋は日に日に追い詰められていき…。転塾は塾にとっても死活問題ですが、子どもに与える影響も計り知れないのです。

受験塾の実態その3 数々のオプション

 塾には、通常の授業のほかに、長期休暇講習というオプションがあります。桜花ゼミナールでは、春期講習、夏期講習、冬期講習のほか、ゴールデンウィーク講習、授業のない日曜日のオプションとして前期日曜特訓、一日中勉強づけの勉強合宿、志望校別特訓、弱点克服特訓……などなど、年間通して継続課金できるパッケージ商品を用意しています。

 これらのオプションをすべて取り、さらに通常授業料も合わせると、年間126万9000円かかるそう(※作中の一例)。中学受験はとにかくお金がかかるので、親の協力なしに合格はありえません。親を「スポンサー」と呼ぶのはこういう理由からなのです。

受験塾の実態その4 系列校への勧誘

 ある日黒木は、Rクラスの子どもたちに渡すため、「よくがんばったで賞」と書いた表彰状をつくります。黒木にも優しいところがあったのだと感動する麻衣でしたが、実はその表彰状は、「個別指導塾ノビール」への勧誘券だったのです。

 ノビールは、桜花ゼミナールの系列塾で、うまく誘い込むことができれば、塾の売り上げが大幅にアップするという算段です。黒木いわく、「重課金コース」。麻衣は、塾経営の現実に、またもや愕然とするのでした。

 本作はあくまでフィクションですが、売り上げを安定させるために、塾もいろいろな工夫をしているようです。そのためにはオプションをたくさん取ってもらわないといけませんが、最終的に合格してもらわないと塾の実績が上がらないので、成績を上げるサポートにも手を抜けません。塾講師たちも、必死です。

 原作はまだ連載中なので、生徒たちの合格の行方はわかっていません。ドラマ版でどのように着地させるのかも見どころのひとつ。そして、柳楽さんのビジュアルが、原作の黒木にそっくりでびっくりしました。ドラマへの期待が高まりますね。

 今どきの中学受験の実態、覗いてみませんか?

文=中村未来(清談社)

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