「魔王」と呼ばれる“規格外”な姉と弟が金魚すくいに挑む!? 話題の小説『スモールワールズ』の1編が、一穂ミチ書き下ろしの後日談が追加されてコミカライズ!

マンガ

更新日:2021/10/21

魔王の帰還
『魔王の帰還』(一穂ミチ:原作、嵐山のり:漫画/講談社)

 第165回直木賞へのノミネートに続き、第12回山田風太郎賞候補にも選出されるなど話題を集めている小説『スモールワールズ』(一穂ミチ/講談社)。この連作集に収録された短編の中でも人気の1編が、『ブルーピリオド』などの話題作満載の雑誌『アフタヌーン』(講談社)で、短期集中コミカライズとして連載された。その作品こそが、2021年10月に単行本として発売される『魔王の帰還』(一穂ミチ:原作、嵐山のり:漫画/講談社)である。

 いかつい図体に金髪ピアス、暴力沙汰で転校してきたと噂されている主人公の高校生・森山鉄二には、最強(恐)の姉がいる。27歳、身長188センチ、体重怖くて訊けない、名前は「真央」で、あだ名は「魔王」。そんな尋常でないスケールの姉が、ある夏の日、嫁ぎ先から突然「離婚する」と実家に帰ってきた。

魔王の帰還 p.4

 離婚の理由を訊けないばかりか、姉に学校を案内するはめになった鉄二は、がらんとした教室で、同級生の女子に急な教室移動を知らされる。童貞の鉄二は「女子と喋った」という事実だけで舞い上がってしまうが、真央にはすかさず叱られた。「なんで親切にしてもらって礼を言えんのじゃ! ありゃお前を待っててくれたんじゃろ!」。彼女の名前は住谷菜々子。鉄二と違って見た目はごくふつうの女子であるにもかかわらず、クラスの中で、鉄二と同じくらい孤立しているために覚えてしまった名前だった。

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魔王の帰還 p.7

魔王の帰還 p.8

 菜々子と森山姉弟が再会したのは、町内の駄菓子店でのこと。祖母にかわって店番をする彼女に、子どもたちがひどい言葉を浴びせているのを見かけたのだ。しかし、そのような暴言を見過ごす真央ではない。真っ当に子どもたちを叱り、口さがない噂話に傷つく菜々子の心を救った真央は、「お礼に」と店内の金魚すくいをすすめられる。その一帯は、金魚の養殖がさかんな地域だった。かくして真央は、店内に掲示してあった「金魚すくい選手権」のポスターに興味を示す。鉄二は「魔王」に逆らえるはずもなく、菜々子とともに、金魚すくい選手権に出場することになるのだが……。

魔王の帰還 p.31

 強いものには、強いからこそつく傷がある。やわらかいものであればいなしてしまえる力にも、まっすぐで強いがゆえに、真っ向からぶつからなければならないからだ。そして、強いものについた傷は、すぐに形を変えられるものについた傷と違って、なかなか消えない。そうなったとき、人はその傷をどのように受け止めればよいか。「傷がなければ」ではなくて、「傷を含めたそれ」という視点が、世界の見え方を変えるかもしれない。

 雑誌『ダ・ヴィンチ』編集部が厳選した「プラチナ本」として選出されたこともある原作の1編を、『ふしぎの国の私』で四季大賞を受賞した嵐山のり氏が描くコミカライズは、原作者である一穂ミチ氏も「嵐山印の『魔王』、自信を持っておすすめします」と絶賛。コミカライズの単行本化にあたり、一穂ミチが漫画版のためだけに原作を書き下ろした後日談漫画も特別に収録されている。ファンタジックなタイトルからは想像がつかないほどに、繊細でリアルな感情が描きだされる本作。「魔王」こと真央の豪快で“規格外”なキャラクターに、読了後は勇気をもらえているに違いない。

文=三田ゆき

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