新規カット追加で煉獄さんの強さが際立つ! 外崎春雄監督が生み出す“妙”とは――TVアニメ『鬼滅の刃』無限列車編第2話

アニメ

公開日:2021/10/19

※この記事は第2話の内容を含みます。ご了承の上お読みください。

鬼滅の刃
(C)吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable

 人間と鬼を乗せた列車が走り出した。光の届かぬ闇の奥へ。竈門炭治郎と我妻善逸、嘴平伊之助、竈門禰豆子の4人は、40人もの犠牲者が出ているという無限列車に乗る。そこには炎柱・煉獄杏寿郎が乗車していた。いよいよ始まったTVアニメ「鬼滅の刃」無限列車編。第2話「深い眠り」は竈門炭治郎、我妻善逸、嘴平伊之助の若き鬼殺隊のメンバーが、鬼殺隊の最強の一角である炎柱・煉獄杏寿郎と出会うエピソードである。

 このエピソードは、原作コミックス第7巻第54話「こんばんは煉獄さん」をアニメ化したもの。煉獄さんが弁当を食べているときの「うまい!」の連呼、炭治郎の戸惑うリアクションなど原作通りにアニメ化している。今回のTVシリーズ版無限列車編では、劇場版無限列車編の映像をただ編集するだけでなく、煉獄さんの「うまい!」の大声量の迫力を表すエフェクト、煉獄さんがお弁当を食べるカットや、吹き飛んだお弁当が見事に着地するカットなどを新規カットとして追加し、煉獄さんのインパクトを強調している。

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 原作コミックスで描かれているキャラクター性を、アニメーションならではの表現で強調する、まさに漫画のアニメ化の理想的な関係がここにあると言えるだろう。アニメ版『鬼滅の刃』、本当によくできてる!

 

 さて、原作コミックスと今回のアニメを見比べてみると、原作コミックスからの大きな変更点がすぐに2つ見つかるはずだ。

 ひとつは鬼の追加だ。原作コミックスでは、最初に無限列車に現れる鬼は一体のみ。頭と腕に無数のツノを生やし、複数の口がある巨躯の鬼が出現し、煉獄さんは「この煉獄の赫き炎刀が お前を骨まで焼き尽くす!!」と名乗り、炎の呼吸 壱ノ型《不知火》で鬼を一刀のもとに切り伏せてしまう。だが、アニメ版ではその巨躯の鬼を倒したあとに、もう一体、口がカニのように横に開き、手と足が長い異形の鬼が出現。伊之助が果敢に飛び掛かるも、鬼は長い手足を高速で振り回して反撃するというバトルが描かれている。ここで煉獄さんは伊之助と乗客を救いながら、炎の呼吸 弐ノ型《昇り炎天》を繰り出し、鬼を撃破。炎柱としての圧倒的な強さを、炭治郎たちに示すのだ。煉獄さん、めちゃ強い!

 TVアニメ無限列車編ではAパート(前半)に一体目の鬼(原作コミックス準拠)、Bパート(後半)に二体目の鬼(アニメオリジナル)を出すことによって、視聴者に緊張感の糸を切らすことなく、煉獄さんの圧倒的な強さを見せていた。まさにアニメ版の構成力の高さを感じるシーンである。

 ひとつ目の追加はそういったアクションシーンの増量。そして、もうひとつの追加は、炎の呼吸の映像的な見せ方だ。

 アニメ版『鬼滅の刃』では、鬼殺隊の剣士たちが使う「呼吸の技」は独特なエフェクトで表現されている。

 主人公・竈門炭治郎や水柱の冨岡義勇が繰り出す、水の呼吸は、筆のような筆致と葛飾北斎が描く浮世絵のような水のうねりのビジュアルを重ねることで、迫力満点の剣技を映像として見せている。一方、炎柱の煉獄杏寿郎が放つ炎の呼吸のエフェクトは、幕末に起きた鳥羽伏見の戦いの錦絵の大砲の炎をモチーフにしているのだという。『鬼滅の刃』を手掛けている、外崎春雄監督はそうやってアニメならではの表現でキャラクターや作品の世界を広げているのだ。

 

 外崎春雄監督は、もともとアニメーターとして豊富なキャリアを積んできた人物だ。彼は『新機動戦記ガンダムW』(1995年)や『機動新世紀ガンダムX』(1996年)といったロボットアニメ作品から、『るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚-』(1997年)といった剣戟アクション作品まで幅広い作品で活躍してきた。中でも「るろうに剣心」シリーズでの活躍は印象的で、TVシリーズのみならず、OVAとして発売された『るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚- 追憶編』(1999年)『るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚- 星霜編』(2001年)でもその筆を振るっている。

 この『追憶編』は、アニメ「るろうに剣心」シリーズにおける異色作。登場人物がリアルタッチなキャラクターデザインで描かれており、ケレン味あふれる剣戟アクションが魅力の一作だ。実写映画『るろうに剣心 最終章 The Beginning』(2021年)においても『追憶編』が製作協力とクレジットされており、その後の「るろうに剣心」シリーズのひとつの可能性を示した一作といえるだろう。また、続く『星霜編』では、TVアニメ『鬼滅の刃』でキャラクターデザイン・総作画監督を務める松島晃氏がキャラクターデザイン、作画監督を担当。TVアニメ『鬼滅の刃』の外崎&松島コンビの初期の仕事を観ることができる一作になっていると言える。

 外崎春雄氏はその後、アニメ制作会社ufotableに参加。アニメーターだけでなく演出家として仕事の幅を広げていき、TVアニメ『ニニンがシノブ伝』(2004年)でシリーズディレクターを担当。そして、人気RPG「テイルズ オブ」シリーズのゲーム内ムービーやオープニングムービーを手掛けるようになる。放送日に追われるTVアニメとは違い、緻密に作り込むことができるゲームの仕事にじっくりと打ち込んだそうだ。特に彼がアニメーションムービー監督を務めたゲーム『テイルズオブエクシリア』のオープニングムービーは、カメラを動かしまくる冒頭から、キャラクターの繊細な表情を描く中盤、そして激しいアクションシーンという後半まで、ひとつの映画を見るかのような迫力に満ちている。

 ゲーム「テイルズ オブ」シリーズの仕事で高い評価を集めた彼は、TVアニメ『テイルズ オブ ゼスティリア ザ クロス』(2016年)を監督。複雑な鎧やコスチュームを着たキャラクターたちに鮮やかなアクションをさせるという、アニメの作画においては鬼門といわれる表現を、丁寧にコントロールすることに成功している。アニメーター出身の監督だから実現した映像へのこまやかな気配りと、けれん味あふれるアクション描写。外崎監督の25年以上の経験と積み重ねが花開いているのが『鬼滅の刃』なのだ。

 

 無限列車が走り始めた。鬼が待つ闇の中へ。これから繰り広げられるだろう、煉獄さんと炭治郎たちのアクションが楽しみだ。

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