あなたもきっと騙される。カルト教団にハマった家族から虐待を受ける少女を救い出した先にはまさかの真相が…

文芸・カルチャー

更新日:2021/10/23

邪教の子
『邪教の子』(澤村伊智/文藝春秋)

 悲惨な境遇に置かれている「囚われの姫」を助け出す物語は、いつの時代も人気だ。だが、『邪教の子』(澤村伊智/文藝春秋)は救出劇の先に、練り込まれた衝撃がふんだんに詰め込まれている、一風変わった作品だ。

 作者の澤村氏は2015年に『ぼぎわんが、来る』(KADOKAWA)で、日本ホラー小説大賞の大賞を受賞。2019年には「学校は死の匂い」で日本推理作家協会賞短編部門を受賞。同作は、『などらきの首』(KADOKAWA)に収録され、話題になった。

 斬新で魅力的なホラーやミステリを次々と生み出す澤村氏は、今大注目の気鋭作家。そんな澤村氏はこの度、どこにでもありそうな平凡なニュータウンを舞台にした新たな代表作を生み出した。

advertisement

平凡なニュータウンにカルト教団にハマった家族が引っ越してきて…

 舞台は、「光明が丘」というどこにでもありそうな平凡なニュータウン。そこに、ある新興宗教を妄信している家族が引っ越してきたことで、街は騒然となる。なぜなら、母親が宗教への過激な勧誘をしたり、病気を患う娘の茜を利用して、住民たちに対し募金を求めたりし始めたからだ。

 茜は学校に行かせてもらえず、どうやら虐待も受けているようだ。主人公の慧斗は、ずっと家に閉じ込められている茜のことが気になるようになった。

 そこで、ある日友人と共に茜の家へ行き、彼女と交流。しかし、帰宅した茜の母親に見つかってしまい、茜のために募金をさせられたあげく、家から追い出された。

 すると、茜は家から出た慧斗たちに訴えるようなまなざしを向け、2階にある自室の窓から手紙を落とす。暗号化されたその手紙を解読した慧斗は、脱会屋(信者を他の信者から強制的・長期的に引き離し、所属する宗教団体から脱会させる仕事)の「みずはし」という人物に茜が助けを求めていることを知る。

 あの子を、なんとしても救いたい。そう思った慧斗は「みずはし」に接触し、救出を依頼。友人たちと協力し、「囚われの姫」を自由の身にしようと奮闘する。

 …こう記すと、よくある冒険ストーリーと大差ないように感じるだろう。しかし、さすが「澤村ホラー」。この物語は、ラストまでの展開が一筋縄ではいかない。なんだ、この展開は…と驚愕させられるようなどんでん返しが何度も繰り広げられるため、文字を目で追うのが楽しくてたまらなくなるのだ。

 戦慄のラストになるよう、緻密に仕込まれた伏線が素晴らしい。そんな感想で胸がいっぱいにもなる本作に、あなたもきっと騙される。どんな風に「一筋縄ではいかない」のかを、ぜひその目で確かめてみてほしい。

文=古川諭香

あわせて読みたい