アスリートのように仕事とプライベートを走り切る――子育て世代必見のエネルギーマネージメント術

ビジネス

公開日:2021/10/27

ピークパフォーマンス
『ピークパフォーマンス』(野上麻理/WAVE出版)

 仕事に打ち込む時間も体力もたっぷりある。ゆったりと子育てをする余裕がある。そんな理想を思い描くことはできても、仕事というのは大抵トラブルがつきものですし、子育てでは時間も体力も消耗します。いわゆる「ないない尽くし」です。

 この『ピークパフォーマンス』(野上麻理/WAVE出版)は、「ないない尽くし」を憂う必要はなく、むしろ今の自分を塗り替えるチャンスだと思わせてくれます。著者の野上麻理氏が専門とするのは「エネルギーマネージメント」です。P&Gジャパン株式会社に入社して、ビジネスパーソンの生産性を上げることを目的とした「コーポレートアスリート」というトレーニングのトレーナーとなった野上氏は、社内でメソッドを教えつつ、自身で子どもを2人育てる際にも実践・応用を積み重ねました。その経験から、仕事と私生活は「ワーク・ライフ・バランス」という言葉が示すようなバランス維持に注力がなされるべきではなく、「両方掴み取りに行くエネルギー」が大事なのだと論じています。

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「アスリート」と言われると、選ばれし人しかなれない気がしてしまいますが、本書では誰でもその競技トラックを走り出せるような手引がなされています。第一歩は、自分をHP(ヒットポイント)があるゲームキャラだと想像してみることです。

キャラの場合はエネルギーレベル計がいつも横に見えているので、ここでエネルギーを補充しないといけないとか、ここで使うとエネルギーがマイナスになってゲームオーバーになるというのが明確ですよね。
実は、エネルギーマネージメントの第一歩は、このエネルギーレベル計を自分の横に置くことから始まります。これで現在の自分のエネルギーが高いか低いかを、いつでもわかるようにしておくのです。

 パラメーターが自分の中につくりだされると、エネルギーレベルを自覚、把握する感覚が発生します。把握方法は、下記の4項目を4段階(1~4)でレベル付けするというシンプルなものです。

・肉体的に疲れているか、元気か
・感情的に否定的か、肯定的か
・集中できているか
・自分の関心事に関連のあることをしているか

 体力や能力というものが、鍛錬によって無限大まで伸びていくのであれば憂慮は何もないのですが、残念ながらそれらには限界(ピーク)がありますし、歳をとるほど体力は下がっていきます。能力というのもずっと伸びていくものではなく、ある時点で天井を打ちます。時間もお金も人生も、限りがあります。

 人生はいつ終わりが来るかわからないので「限り」がわかりませんが、時間は「限り」の輪郭をある程度つかむことができます。そこにエネルギーの「限り」という要素がかけ合わされるとき、化学反応が生まれるというのが著者の論理です。

体力のある時代にフルタイムで働いて、そのうち体力のダウンを迎える男性に対し、ワーキングマザーの利点は、まだ体力があるうちに、効率を上げざるを得ないため、スキルが上げられるのです。

「限り」を受け入れてうまく付き合っていく考え方は、仕事だけではなく日常生活にも積極的に活用することが推奨されています。冒頭で述べた「両方掴み取りに行く」というスタンスです。例えば著者は、子どもが小学生だったときに体力の「限り」が原因で、帰宅後に翌日の持ち物チェックをするのがとてもストレスフルで思い悩んでいました。しかし、自分の体力の限界値を自覚して、娘と過ごす時間でも仕事と同等にエネルギーが最大限発揮されるように習慣付けしたところ、見える景色が変わってストレスは消え去ったといいます。

 仕事と子育て両方をするのに体力が追いつかない、時間が足りない、という悩みを抱える子育て世代の方に特にオススメの一冊です。

文=神保慶政

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