ある日突然自分が死んだら? 残された家族を守るためにできること『ある日突然オタクの夫が亡くなったら?』【書評】

マンガ

更新日:2021/10/27

ある日突然オタクの夫が亡くなったら? 身近な人が亡くなった時にやるべきこと、起こること
『ある日突然オタクの夫が亡くなったら? 身近な人が亡くなった時にやるべきこと、起こること』(こさささこ/KADOKAWA)

 亡くなった家族の銀行口座のパスワードがわからず預金を引き出せない、遺産問題が兄弟や親戚のいざこざに発展してしまった…などなど、自分には関係なさそうに思える噂やニュース。ところが、自分や家族の死はある日突然やってきます。これらの死後の手続きや問題は決して他人事ではないのです。

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ある日突然、夫が亡くなった

ある日突然オタクの夫が亡くなったら? 身近な人が亡くなった時にやるべきこと、起こること p.8

ある日突然オタクの夫が亡くなったら? 身近な人が亡くなった時にやるべきこと、起こること p.9

『ある日突然オタクの夫が亡くなったら? 身近な人が亡くなった時にやるべきこと、起こること』(KADOKAWA)は、ある日突然夫を亡くしたイラストレーターのこさささこさんが、その体験談を漫画に描き起こしながら、死後にやるべき手続きなどを文字でわかりやすくまとめた1冊です。刊行されたのは2018年で、夫の死後の状況を描いたこささんの漫画は、SNSでも話題になりました。

 結婚を機に山形に移住し、2人の子どもを育てながらイラストの仕事をしているこささん。夫はいわゆるオタクで、専門知識を生かして大学教授をしていましたが、40代という若さで亡くなりました。その日、子どもたちと先に寝ていたこささんは、朝起きてこない夫の様子がおかしいことに気づきます。前日の夜は普段と変わらない会話をしていたのですが…。

 その時の状況が描かれた漫画はあまりにもリアルで、とても他人事とは思えません。もし自分や身内が突然亡くなったら、いったい何をすればいいのでしょうか。

知られざる死後の手続きあれこれ

ある日突然オタクの夫が亡くなったら? 身近な人が亡くなった時にやるべきこと、起こること p.16

ある日突然オタクの夫が亡くなったら? 身近な人が亡くなった時にやるべきこと、起こること p.

 AEDがあれば夫は助かっただろうか、ほかに何をすれば…と気持ちを整理できず、夫の死の直後は自問を繰り返していたという、こささん。しかし悲しみに暮れる暇もなく、やらねばならない手続きはやってきます。

 遺体は警察署に移され、自宅を捜索されて、こささんは事情聴取を受けます。続いて手続きをするのは葬式・火葬・告別式。そして公的な手続きも。やるべきことは多く、こささんは途中で何をやっているのかわからなくなり、複雑すぎて混乱した書類も多々あったそうです。

 その経験をもとに、本書には、経験したからこそわかる情報がたくさん紹介されています。あらゆる手続きに必要になる「死亡診断書」をあらかじめコピーしておくことや、役所関連の手続きを1日で効率よく進める方法などは、その一例です。

残された家族の心のケアも忘れずに

ある日突然オタクの夫が亡くなったら? 身近な人が亡くなった時にやるべきこと、起こること p.30

 夫の死後、こささんの家族はみんな食欲がなくなり、喧嘩が増え、こささん自身、突然死にたくなったこともあったそうです。そんなある日、地域の民生委員やコミュニティソーシャルワーカーが訪ねてきて、母子家庭になったことを実感したとか。

 突然の死によって自分や周りの人の心がどう変わってしまうのか、今から想像するのは難しいこと。だからこそ、母子家庭に限らず、周りに助けを求められる環境があることを知っておくだけで安心感につながります。

遺品整理はネット上の持ち物に注意

 遺品整理について詳しく知ることができるのも本書の特徴です。こささんの夫はオタクだっただけに膨大な量の遺品整理となったそうですが、オタクに限らず、人ひとりの持ち物はそれなりの量があるはず。

 今どき気をつけたいのは“ネット上の持ち物”です。銀行口座はもちろん、不動産や投資信託、有料のアプリやコンテンツなど。特に有料コンテンツは存在を知らないとお金がどんどん引き落とされてしまいます。

 身内が何をどれだけ契約していたのかよくわからない…という人は、クレジットカードの明細を取り寄せると便利だとか。また、パソコンや携帯電話は重要な情報源なので、一連の手続きが終わるまで残しておいたほうがいいそうです。また、これらのデータの整理や削除に自信がない人は、デジタル遺品調査をする業者に頼む方法もあります。

死後の準備が大切な人を守る

 ほかにも、銀行口座のパスワードの残し方、お墓がない場合の対処法、複雑な相続の基本など、死後の手続きが網羅されています。中には、死後にもらえるお金や、自分から連絡をしないと進められない手続きもあるので、事前に知っておいたほうが良さそう。今すぐにでも死後の準備をしたい人は、「生前にやっておくことリスト」をチェックするといいでしょう。

死に実感がわかない人にこそ読んでほしい。もしもの時に家族が困らないために今できること、ぜんぶ。

 本書にはこのように綴られています。覚えておきたいのは、自分の死後の手続きや整理は、必ず誰かが行うということ。家族のいない人もそう。膨大な手間や不安な気持ちを少しでも減らすために、死後の準備をしておくことは、大切な人たちに残せる優しさであり、大切な家族を守ることにつながるのではないでしょうか。

 死後の手続きなんて考えるのもつらいことですが、本書は漫画で体験談が描かれているからこそ感情移入でき、そこまで気分が重くならずに読み進めることができました。家族や身近な人にも、「参考になるから読んでみて」と手渡しやすい本だと思います。

文=吉田あき

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