あなたは悪くない。コミックエッセイ『毒親に育てられました』作者が子どもの頃の自分にも伝えたい言葉とは

マンガ

更新日:2022/8/6

毒親に育てられました
『毒親に育てられました』(つつみ/KADOKAWA)

 インスタやブログで公開され、大反響を呼んだリアルコミックエッセイが『毒親に育てられました』(つつみ/KADOKAWA)だ。

 まさにタイトル通り、作者・つつみさんの母親は暴言・暴力、過干渉により、彼女を傷つけていく。彼女は心が折れそうになりながらも、なんとかサバイブした。そんな“母から逃げて自分を取り戻すまで”の記録が本作である。

 毒親は近年、社会問題として広く知られるようになった。ただ親に問題があっても子どもは相談することが少なく発覚しにくいようだ。また、大人になるまで自分の親に問題があると気付かないケースもある。それでも心の奥底は蝕まれており、何かのきっかけでトラウマとなって噴出し、つつみさんがそうだったように精神の疾患として表出することもあるのだという。

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 つつみさんのインスタのフォロワーは19万人以上(2021年10月時点)と、多くの人がこのテーマやサバイブ体験に大きな関心を持っていることがうかがえる。

 そんななかで彼女がインスタやブログで発表していた漫画を単行本にしたのは、毒親に苦しめられている人たちへ「一人じゃないよ、私も毒親から逃げて幸せになれたよ」と伝えるためだった。はっきり自分の親を「毒親」だったと認識している方はもちろん「ひょっとしてうちも…」と不安がある方も、本書を読んでみてほしい。

暴言や暴力から自分を取り戻すまでの苛烈な日々

 つつみさんは幼少期に両親が離婚し、母方の祖父母のもとでしばらく育てられていた。そんなある日、母親が迎えにくる。彼女は車から“じいちゃんとばあちゃん”に手を振るが、なぜか母親はそれを咎め、さらに彼らにもらったおもちゃを「ダサい」となじる。

 つつみさんはそのとき、いつまでも手を振る祖父母を見ながら、手を振り返せずにいる自分を“ひどく憎んだ”という。これがつつみさんの地獄のような日々の始まりとなる。その後の母親からの暴言、暴力、ネグレクトは、読んでいてこちらまで心のつらさが伝播してくるような壮絶なものだった。

毒親に育てられました P24
すぐ理不尽にキレる母親にどうしようもできないつつみさん。

 つつみさんは、体罰と言って食事をさせてもらえないこともしばしばあった。もし勝手に台所の食べ物に手を出せば暴力をふるわれる。家の中で自由に行動することもできない。そこで彼女がしたのは、「トイレの水を飲む」ことだった。

毒親に育てられました P50

 こうして心身共に支配されながらも、つつみさんは成長していくにつれて「お母さんが正しくないこと」「憎むべきはお母さんであること」を理解できるようになる。ただ服従心が植えつけられた彼女の心は、反抗には向かっていかない。人に相談できない自分の意気地のなさを責めるようになるのだ。

 つつみさんは苛烈な日々を過ごしながらも、なんとか高校生になる。そこで転機が訪れた。それが親友になるA子さんとの出会いだ。

 気軽に母親の愚痴を話すと、A子さんは“すべてを真剣に聞いて共感”し、さらに「毒親」という言葉を教えてくれた。つつみさんは「その言葉」を携帯電話で検索したところ、たくさんの体験談を見つける。「自分と同じように闘っている人たちがいる」そう思えたのが心強かった。そして勇気がわいてきた。そしてついにそのときが……。

毒親に育てられました P182

毒親に育てられました P183

 つつみさんは気持ちが強くなり、体が大きくなっていたこともあって、初めて母親に対抗できた。この日を境に身体的な暴力はなくなる。これは毒親から逃れるプロローグに過ぎないが、大きな一歩になった。

毒親に育てられた人にかける言葉は「自分を責めないで」「あなたは悪くない」

 地獄のような日々から、つつみさんが抜け出せたのは相談相手に出会えたからだ。それだけで彼女の世界は一変した。

 本書は教育評論家・親野智可等(おやの ちから)氏による「毒親」の解説コーナーも収録している。親野氏は「子どもは毒親の一方的な被害者」「毒親の子どもは、もしかして本当に私が悪いのかもと思いがち」だという。これは本作で繰り返し描かれている、つつみさんの心情そのもの。これも親野氏の言葉だが「人は理不尽なことになんとか理由をつけて、自分を納得させようとする」ものなのだ……。

 つつみさんは大人になってからもいろいろあった母親と、現在は絶縁できている。彼女は小さい頃の自分に「ちゃんと幸せになれたんだよ、ちゃんと逃げられたんだよ」と伝えたいそうだ。

「よく耐えたね よく頑張ったね」

 つつみさんが過去の自分にかけた言葉。もしもあなたの友人や知人が、ふと毒親に追い詰められた経験を語り始めたら、この言葉を心のどこかにとめて、ゆっくりと話を聞いてあげてほしい。

文=古林恭

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