うんちはなぜ臭い? なぜ茶色くて忌み嫌われるの? 誰かに話したくなる「うんちのうんちく」が満載の1冊!

暮らし

公開日:2021/11/4

うんち学入門 生き物にとって「排泄物」とは何か
『うんち学入門 生き物にとって「排泄物」とは何か』(増田隆一/講談社)

 小さな子供が「うんち」という言葉が大好きなのは、どうしてだろう? 以前放送された『チコちゃんに叱られる!』(NHK)では、オーストリアの精神分析学者・ジークムント・フロイトの心理性的発達理論(※)にある「肛門期(アナーレ・ファーゼ)」を引き合いに出し、うんちをすると気持ちいいというのを覚えることとトイレができると褒めてもらえる(トイレトレーニング)という体験によって、肛門期の子供はうんちを自分の子供だと思っている、という説を紹介していた。また他にも「うんち」という言葉が周りにウケることを知って連呼する、小さな子供がどうやっても勝てない大人に「うんち」と言うだけで優位に立てるのを学習した結果などいろいろな説があるという。

 だが大人になると……というか小学3、4年生くらいで、途端に「汚い」「臭い」「学校のトイレでうんちしただろ!」となってしまう。しかし毎日の「排泄」は人間にとって、そして生きとし生けるものにとってとても大事なことである。しかし、しかしである。なぜうんちはこれほど臭い必要があるのか? 忌み嫌われるのはなぜか? そもそもうんちとは我々にとっていったい何なのか? 何かの役に立っているのか? それにしてもなぜ毎日出るのか? (2、3日絶食しても出ます。便秘の方はどうぞご自愛ください……)

 そんなあまりに根本的な問題=生物にとってうんちとは何かについて、さまざまな角度から教えてくれる本がある。それが『うんち学入門 生き物にとって「排泄物」とは何か』(増田隆一/講談社)だ。本書はうんちとしてこの世に生を受けたものの、「臭い、汚い」と笑われてしまったことで自身のアイデンティティに悩むうんち君が、たまたま通りがかった旅人ミエルダと出会い、森の中の小道を歩きながら、うんちについてのさまざまな疑問をミエルダへ投げかけ、その答えと詳細でわかりやすい説明が語られる構成になっている。

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 生き物が環境に合わせてどのように体の仕組みを変え、いつからうんちをし始め、どう能動的にうんちができるようになったのか……その長い長い進化の歴史が説明されるのだが、口と肛門はどうやってできたのか、捕食―被食関係はなぜ生まれたのか、肛門はなぜ後ろにあるのか、顔や体の前後はどうしてできたのかなど、普段当たり前であることが「うんち」をめぐる言説に絡めてスッキリと解明されていく。

 また体内でどんな過程を経てうんちが作られるのか、うんちは何でできているのか、さらにはよく噛むことの重要性や便秘を甘く見てはいけない理由、生き物の中で人間だけが排泄後に拭く必要性があるのはなぜなのか、うんちは生物にとってどんな役に立っているのかなどなど、興味深いトピックスがある。多くの気づきと発見のある本書は、最後の第5章「環境にとっての『うんち』」で、物質循環するうんちは地球に影響を与えているという壮大な話で締めくくられ、最後の最後にはうんちにまつわる謎を教えてくれたミエルダの正体も明かされるのだ……! (こちらは読んでのお楽しみ)

 著者の増田隆一氏は野生動物の分子系統学、動物地理学を研究している動物学者(正式な肩書は北海道大学大学院 理学研究院 生物科学部門 多様性生物学分野 教授)であり、普段は野外に落ちている動物のうんちをDNA解析することがあるそうだが、うんちをテーマにした本書を執筆するに当たり、わからないことがたくさん出てきたそうだ。そこで身近にいるさまざまな研究者に質問をし、その答えを聞くことで、うんち学は生物学そのものであるという考えに至ったそうだ。

 そう、生きるためには食べねばならない。食べたら排泄するのは当たり前。うんちをするのは、生き物が生きている証なのだ。

 そして冒頭の話に戻るが、肛門期の子供たち、もしかしたらうんちがこの世界と生き物に与えている影響力の大きさを、実は本能的に知っているのかもしれない……ということで、肛門期を過ぎて本能を忘れてしまったすべての人必読の1冊、ぜひ奥深き“うんち学の世界”へ入門されたし!

文=成田全(ナリタタモツ)

※心理性的発達理論……子供には満1歳くらいまでの「口唇期」、2、3歳の「肛門期」、5、6歳までの「男根期(エディプス期)」、学童期の「潜伏期(潜在期)」、思春期以降の「性器期」という5つの成長段階がある、というフロイトの理論のこと。

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