孤独だった姫の純情に胸キュン! 思わずにやける青春ストーリー『シンデレラは探さない。』

マンガ

公開日:2021/11/3

シンデレラは探さない。
『シンデレラは探さない。』(天道源:原作、クロ:漫画、キャラクター原案:佐伯ソラ/講談社)

 タワマンに住むお姫様が毎日家にやって来る、ラブコメ未満の青春ストーリーが『シンデレラは探さない。』(天道源:原作、クロ:漫画、キャラクター原案:佐伯ソラ/講談社)である。

 主人公・荒木陣(あらきじん)は、風邪をひいた妹の看病のために学校を休んでいた。その日の夕方、家にくるみ色の髪をもつ美少女がやって来る。彼女は同級生の真堂礼(しんどうれい)。先生に頼まれたプリントとお見舞いを持ってきたのだという。

 以前、陣と妹は彼女を見かけたことがあり、妹はそのときに「お姫様みたい、彼女とお話したい」と言っていたため、陣は“話すのは初めてだけど”と思いながら「いっしょに見舞いを食べていってくれ」と言ってみる。礼は「ご馳走になろうかしら」と言って“靴”を脱いだ。

 シンデレラの物語はこうして“再び”始まった。

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素直すぎるシンデレラが物語を照らす、ラブコメ未満の青春ストーリー

 陣は母を亡くし、父親と妹の3人暮らしだった。彼は自分の家庭、主に妹を守るためだけに生きていたといっても過言ではない。

 しかし彼はふと考える。“自分のように苦労し、泣きたくてもそうできない人”に気付いてあげたいと。だから学校にいるときは周りを見て、ごみが落ちていれば拾い、ベンチが壊れていたら直し、“困っていそうな人間がいれば声をかける”。そんなことを続けているうちに「いつか誰かの悲しみに指先が引っかかるかもしれない」と考えるようになった。

 彼は学校で誰の記憶にも残らないが、達成感のようなものはあったし、家のことは何とかできるはずだった。しかし色々な意味で限界がくる……。

 本作は少年の自己犠牲の精神が描かれ、根底には重苦しさがあるものの、明るくほのぼのとしている青春ストーリーで、万人にすすめられる。作品の雰囲気は真堂礼というヒロインによって成立している。クールに見えて感情をまったく隠せないかわいらしさ。彼女が物語を明るく照らしているのだ。

 礼が家に来た日、陣は心身ともにギリギリだった。だが突然やってきたお姫様に妹は喜び、懐き、陣は安堵した。彼は「ただ誰かがいるだけでも助かるのだ」と知る。

 礼は近所のお城のようなタワーマンションでひとり暮らしをしていた。それから何だかんだと理由をつけて、ほぼ毎日来てくれるようになる。毎晩“3人で”食事をし、幸福な時間を過ごす。

 実は救われていたのは陣だけではなかったのだが。

好きな理由、変わったきっかけ。王子と姫の物語はまだまだ続く

 言ってしまえば礼は陣に恋している。それは前提だと1話を読めばわかる。家を訪れたときの表情は複雑で、その1話で描かれた表情と15話の回想での表情が違うのに注目してほしい。陣は彼女と初めて話したと思っているが、礼はなぜ好きになったのだろうか。

 以前の礼は今と別人のような、近寄りがたい雰囲気だった。自分も他人も嫌いという“どうしようもない状態”。虐められていたシンデレラではないものの、孤独なお姫様だった。

 それが今は学校のアイドル的存在の人気者。自分の恋心を共有する友人もいる。礼が変わったきっかけとなった出来事があるようだ。彼女はふと陣に告げる。

シンデレラは自分から王子様を
見つけにいかないのよ
探されるまでじっと待っているの

でも私は待っているだけじゃ
我慢できなくなってしまったみたい
だから…探してみることにした

 これを聞いて、忘れっぽい王子様はこのように返事をしてしまう……。

礼ならできるよ!
きっと王子様も見つかる!

 ふたりは恋仲にはほど遠いが、それはうれしいことに物語の継続を表している。最新の3巻では、陣が別のお姫様――柳宮子(やなぎみやこ)と出会う。彼女も自分が嫌いで、どうすればいいのかわからなくなっていた。もちろん宮子は救われるだろう。忘れっぽい王子様と、素直でかわいいシンデレラに。

 本作は純粋で眩しい青春ストーリーだ。さらに巧みな構成と展開にも心地よく“してやられる”。何度も読み返したくなること間違いなしだ。

文=古林恭

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