Google、任天堂、トヨタも失敗する。一流企業の「負け製品」から学ぶ、失敗の意義【書評】

ビジネス

更新日:2021/11/5

世界「失敗」製品図鑑 「攻めた失敗」20例でわかる成功への近道
『世界「失敗」製品図鑑 「攻めた失敗」20例でわかる成功への近道』(荒木博行/日経BP)

 どんなにメンタルが強くても、失敗が好きという人はなかなかいない。私生活でも仕事でも、できれば避けて通りたいものだ。しかし、そんな失敗のイメージをガラッと変えてくれるのが、本書『世界「失敗」製品図鑑 「攻めた失敗」20例でわかる成功への近道』(荒木博行/日経BP)である。

 著者は、株式会社学びデザイン代表取締役の荒木博行氏。グロービス経営大学院でのオンラインMBAの立ち上げや副研究科長を経験するなど、育成や教育のジャンルで経験を積み、現在は講義や書籍を通じて、マーケティングや経営戦略、論理思考などについて教えている。教育者としての活動だけでなく、スタートアップの取締役COOも務めるなど、事業を実践しながら、ビジネスマンの「学び」を追求するスペシャリストだ。

 本書は、世界の大企業が過去にリリースしたもののうまくいかなかった製品について、失敗の理由や、そこから学べることをまとめた1冊。1961年に生まれたトヨタ初の大衆車「パブリカ」から、電子決済市場で定着に至らなかった近年の「セブンペイ」まで、年代やジャンルも幅広い。共通するのは、社運の賭かった彼らの自信作でありながらも、成功を掴めず悲しい運命をたどったことだ。

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 本書では、20の失敗製品を、「ユーザー視点」「競争ルール」「社内不全」「経済状況などの大きな力学」という理由で分類して紹介。その中には、著者が、社内体制の欠点や経営層の視野の狭さを厳しく指摘するものもあり、内容はシビアだ。しかし、各製品から学べることを3つのポイントで整理したまとめはわかりやすく、製品をキャラクター化した著者自身によるゆるいイラスト、グラフ上でそのキャラが衰退してしまうまでの道をたどる様子もかわいらしく、「失敗製品」を身近なものと感じることができる。

「ユーザー視点」を学べる事例のひとつが、グーグルがユーザーの詳細な情報を取得するためリリースしたSNS「グーグルプラス」だ。Facebookとの差別化を図るため、違うコミュニティに情報を出し分けられる「サークル」を導入したり、グーグルカレンダーなど既存のサービスと融合させたりする画期的な戦略に出たが、グーグルプラスのアカウントなしではGmailが使えなくなるなどの制限を設けたことで、ユーザーが離れてしまったのだという。野望の大きさゆえにSNSに求められる使い勝手を軽視してしまったと、著者は分析。思いが強いビジネスこそ、企業側の都合をいったん脇に置いて、ユーザーのニーズに即しているか考えることの重要性を伝える事例だ。

 2012年に発売された任天堂の「Wii U」の事例は、ビジネスに参加しやすい枠組みを作ることで競争力を確保する方法について考えさせる。Wii Uの売りは、液晶付きのコントローラーであるゲームパッドとテレビ画面の同時活用による斬新なゲーム体験だった。しかし、ハードが複雑なためソフト開発が難しかったことから、ソフトメーカーが参入しにくく、Wii Uの売り上げは低迷。任天堂が理想とするソフトとハードの統合による高度なゲーム体験を、ユーザーに提供できなかったのだそう。理想の高さゆえに、第三者が協力しにくい閉じたビジネスモデルを作ってしまったことが、失敗を招いたと著者は解説する。

 本書では、ひとつの製品の「失敗」が会社の業績悪化や将来の吸収合併につながったものなど、経済史に残る事例も紹介されている。これらは、資金力のある大企業だからできた大きなチャレンジというとらえ方もできるかもしれない。しかし同じような学びは、大企業で働く人にだけ与えられる特権ではない。時間をかけて作った完成品に自信があるあまり「実は今となっては必要ないのでは?」という考えにフタをしたり、検討を重ねた結論だからこそ顧客への伝え方を軽視してしまったりすることは、身に覚えのある人もいるのではないだろうか。

 大企業の事例は、私たちが日々繰り返している失敗を、ダイナミックに具現した事例とも言える。そして特筆すべきは、それらの多くのケースが、失敗から即座に学び、巻き返しに成功していることだ。使命感を持って新製品の「成功」を本気で目指した結果だからこそ、そのストーリーは心に響く。「失敗」は決して狙うものではないが、尊く、愛すべき存在だと感じられる1冊だ。

文=川辺美希

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