元乃木坂46・桜井玲香主演映画を監督自らノベライズ! 大人になりきれない女子のためのほろ苦くも愛おしいサプリメントストーリー

文芸・カルチャー

公開日:2021/11/5

小説 シノノメ色の週末
『小説 シノノメ色の週末』(穐山茉由/主婦の友インフォス)

 気付いたら、大人になりきれないまま、年齢ばかりを積み重ねていた。学生時代から気持ちだけは変わらないつもりでいるのに、何年もの時が経過してしまったことに驚かずにはいられない。旧友に会えば、再会を喜ぶ以上に、その変化に動揺。かつて思い描いていたような大人になれない自分に焦りばかりを感じてしまう。

 そんな、うまくいかない日常を過ごす女子たちのための作品がある。それは、元乃木坂46・桜井玲香主演の映画『シノノメ色の週末』。メガホンをとるのは、国内外で高い評価を受ける新進気鋭の映画監督・穐山茉由。監督自らがノベライズした『小説 シノノメ色の週末』(主婦の友インフォス)の他、さらには、コミカライズ版も刊行予定だそうで、今、大きな注目を集めている作品なのだ。映画を見て、作品世界に惹かれたら、ぜひともノベライズ版を読んでみてほしい。なぜならノベライズ版には、監督が映画で表現しきれなかった、登場人物たちの感情が赤裸々に描かれているのだ。甘くて苦い28歳の大人女子たちの世界。彼女たちの抱える複雑な思いにもっともっと共感してしまう。

 主人公は、28歳の美玲。学生時代から雑誌を中心に読者モデルとして活躍していた彼女は、今もモデルを仕事にしているが、いつの間にか雑誌のグラビアを飾ることはなくなっていた。そんなある日、高校時代、同じ放送クラブに所属していた同級生・アンディから、廃校になっていた母校・篠の目女子高校が取り壊されることになったとの連絡が入り、卒業以来10年ぶりに、元放送クラブの3人は母校で再会することに。サブカル好きのアンディは相変わらずだが、超マジメで目立たなかったまりりんは、今は広告代理店で働いているのだそうで、デキる女風に変貌を遂げていた。卒業する時に埋めたはずのタイムカプセルを探すという名目で、3人は「篠の目女子週末クラブ」として廃校となった母校へ忍び込むようになる。「何にでもなれる」と思っていたあの頃の自分に戻ったつもりの彼女たちだったが、事態はまったく違う方へと転がっていき…。

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 この作品には、ワクワクとモヤモヤが同居していて、それが心をどんどん揺さぶってくる。たとえば、廃校になった誰もいない母校に忍び込む時の高揚感。根が真面目なまりりんと同じく、最初は「大の大人が廃校に忍び込むなんて」と思わされたとしても、忍び込んでしまえば、このドキドキがクセになる。学生時代に戻った気持ちになって制服を着て、誰もいない母校を散策する彼女たちの姿を見ていると、自分も一緒に学校に忍び込んだような気分にさせられる。それも、彼女たちは女子高出身。3人のやりとりや校舎の雰囲気から感じられる女子高ならではの空気感は、女子高出身者であろうとなかろうと、女子ならばどこか懐かしさを感じさせられるだろう。

 だが、同時に複雑な思いも抱いてしまう。高校時代に戻ったつもりでも、もう彼女たちは大人。高校時代から確かに時間は経過しているのだ。特に、美玲は、まりりんとアンディの変化を素直に喜べない。広告会社で立派に働くまりりんと、趣味の写真でInstagramで多くのフォロワーを獲得するアンディ。彼女たちの活躍を知るにつれて、美玲は、言い知れない不安に襲われる。そんな思いは、実は誰もが味わった経験があるのではないだろうか。

 週末に青春の空気を味わって、また月曜からジタバタ生きる彼女たち。そんな彼女たちのことがどんどん愛おしくなってくる。「この子のこういうところは自分に似ていて、あの子のこういう気持ちは自分と同じだな」とついつい感情移入。そして、読後は、胸に温かいものが広がっていく。

 もし、うまくいかない毎日に悩んでいるならば、ぜひともこのほろ苦くも優しい物語に触れてみてほしい。この作品は、まるでサプリメント。思うように前に進めないでいるあなたの背中をきっと優しく押してくれる。映画や小説、コミックで、これからますます話題になるに違いないこの作品を、あなたも味わってみてはいかがだろうか。

文=アサトーミナミ

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