手の汚れが気になりすぎて、数十分間手を洗い続けてしまう。つらくて苦しい「強迫症」から解放されるためのヒント

暮らし

公開日:2021/11/8

強迫症を治す 不安とこだわりからの解放
『強迫症を治す 不安とこだわりからの解放(幻冬舎新書)』(亀井士郎、松永寿人/幻冬舎)

 いきなりだが、あなたは次の項目に当てはまるだろうか。

●「カギをかけ忘れたのではないか」「ガスコンロの火を消し忘れたのではないか」と不安になり、家に戻って確認した

●数字の4や9に縁起の悪さを感じ、つい避けようとした。

●手が細菌に汚染されたように感じ、念入りに手を洗った。

●本の背の高さが揃っていないのが気持ち悪くて、並べ直した。

『強迫症を治す 不安とこだわりからの解放(幻冬舎新書)』(亀井士郎、松永寿人/幻冬舎)によると、これらは正常心理の例だが、「強迫症」の芽がある、と述べる。

 これらが度を超えると、例えば次のようになり、「強迫症」という病の症状と診断されるという。

●泥棒や火事が心配で、毎日、何回も家に戻ってしまう。納得するまでドアノブを何度もガチャガチャし、施錠確認をしてしまう。火がついていないことに確信を得るために長時間コンロを眺める。これらによって、職場や学校の遅刻を繰り返す。

●数字の4や9に関わるとたいへんな事態が起こるのではないかと恐れ、歩数を揃えたりするなどして、絶対に関わらないように行動する。

●手の汚れが非常に気になり、数十分、手を洗う。汚いものには決して触らない。手袋を付けて生活する。

●本と本がズレていると苦痛を感じ、完璧にピッタリになるよう何時間もかけて並べ直す。自分が望む「まさにピッタリ」感が得られるまで行動を終えられず固まってしまう。

 本書の著者のひとり(亀井氏)は7年前に強迫症(強迫性障害)を発症し、重症化まで経験した精神科医であり、著者のもうひとり(松永氏)がその治療者(主治医)かつ強迫症の専門家。強迫症のつらさと苦しさをよく知る亀井氏は、「7年前にこの世に存在して欲しかった本」として、強迫症の病理と治療法をリアルかつ分かりやすく解説している。

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 強迫症にはおおむね世界共通で次の3パターンがあるそうだ。

(1)確認系…確認を繰り返すことで安心を得ようとするタイプ。確認強迫ともいう。不吉な数字を避けようとする縁起強迫もしばしば認められる。

(2)汚染/洗浄系…感染や汚染を恐れ、洗浄を繰り返すタイプ。洗浄強迫ともいう。

(3)ピッタリ系…“まさにピッタリ感”と呼ばれる感覚の追求を徹底するタイプ。不完全恐怖と呼ぶこともある。

 本稿での先の例でいうと、「施錠確認」「長時間コンロを眺める」「数字の4や9」は確認系、「長時間の手洗い」は汚染/洗浄系、「本と本のズレ」はピッタリ系となる。

 本書によると、これらのいずれも、根底には「不安」がある。カギのかけ忘れや火の消し忘れへの不安、細菌などへの不安、「まさにピッタリ感」が得られないことへの不安だ。これらの不安は、従来の習慣に加えて「念のため」の新しい行動を増加させ、やがてはその行動がなければ不安が軽減しないという不安の増大につながり、さらなる行動が追加されるという。負のスパイラルだ。ついには、日常生活が圧迫されていく。

 さらに恐ろしいことには、強迫症は自然に治ることがほとんどなく、たいていはどんどん症状が習慣化し、脳の構造もそれに合わせて変化していき、治るチャンスは減っていく、と本書。しかし、強迫症には治療法があり、それを早期に受ければ症状が改善される、という希望も伝えている。本書は、紙幅を割いて、その治療法…認知行動療法(CBT)について丁寧に解説している。本書によれば、認知行動療法の骨子は突き詰めればたったひとつ、「不安に従った行動を取ってはならない」ということ。そのためには、強迫が入り込むヒマを作らない、行動を繰り返さず“勝ちを拾い続ける”、などの具体的な考え方や方法が必要となってくる。

 時に強迫症は、家族や周囲の人たちも巻き込む。強迫症の患者および家族、精神科医を含む精神医療従事者など幅広い層に読まれ、強迫症の恐怖が軽減されることを願っている。

文=ルートつつみ (@root223

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