厳しい体罰も…「カルト村」で育った著者が描く、幼少期。そこでは一体なにがあったのか

マンガ

更新日:2021/11/18

カルト村で生まれました。
『カルト村で生まれました。』(高田かや/文藝春秋)

 食事抜きに厳しい体罰、親子が引き離される生活スタイル、徹底した情報統制など、およそ現代日本とは思えないような状況が当たり前だった「カルト村」で生まれ育ち、そこでの体験を赤裸々に描いたコミックエッセイ『カルト村で生まれました。』(高田かや/文藝春秋)。2016年に出版された本作は話題を呼び、『さよなら、カルト村。』『お金さま、いらっしゃい!』(いずれも文藝春秋)とシリーズ化された。

 このたび、そんな「カルト村」シリーズの完結編となる作品が登場した。その名も『カルト村の子守唄』(文藝春秋)だ。

 シリーズ作をすべて読んでいる者としては、「今回はカルト村のなにを描いたのだろう」と気になるところだが、本作のテーマは「カルト村での幼少期」とのこと。これまでの作品で描かれてきたのは「初等部」「中等部~高等部」「村を出てから」であり、初等部よりもさらに前の幼少期となると、一体どんな体験をしたのか俄然知りたくもなる。ただし、それはそれは悲惨だったのではないか……と思い込むのは杞憂。幼い頃を著者・高田かやさんはこう振り返る。

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赤ちゃんの頃は毎晩親と一緒だったから結構普通の暮らしで…
世話係さんも私のいた村の人がずば抜けて怖かったってだけで…
異常に頑固でひねくれ者の私と比べて他の子たちはもっと健全だったと思うんだけど…

カルト村で生まれました。P4

カルト村で生まれました。P5

 これまでのシリーズ作ではカルト村の異様さばかりにスポットライトが当たってしまっていたが、生まれた時から異様だった訳ではなく、幼児期の村はだいぶゆるい雰囲気だったことも伝えてみたい。高田さんはそう思い、筆を執ることにしたようだ。

 カルト村には“専用の”保育所があった。カルト村に住む大人はそこに我が子を預け、村での仕事をする。そこにいた世話係の〈けい子さん〉は非常に朗らかでやさしく、子どもたちからも懐かれていたという。そんなけい子さんのもとで、子どもたちはご飯を食べたり遊んだり、お散歩をしたりして過ごす。「1日2食」というルールは徹底されていたものの、それ以外はとてもほのぼのとした様子だ。過去の作品ではとても厳しく恐ろしい世話係が登場していたため、けい子さんの人柄についホッとしてしまう。

カルト村で生まれました。P12

カルト村で生まれました。P13

カルト村で生まれました。P14

カルト村で生まれました。P15

 病気になると特別に食べさせてもらえる「おかゆ」が美味しかったこと、幼馴染の〈みよちゃん〉や悪ガキの〈カズオ君〉との交流、夏のプールに秋の焚き火と、高田さんは無数の思い出とともにカルト村での生活を振り返っていく。そのどれもが(少々変わったルールがあるものの)ほっこりするものばかりだ。

 しかし、5歳になった頃、高田さんは親元を離れ、同世代の子どもたちとの集団生活に取り込まれていくようになる。高田さんは当時を「寂しくはなかった」と振り返る。たしかに保育所時代から一緒だった友達に囲まれ、徒歩圏内に両親の住居があったため、「寂しくはなかった」のだろう。でも、いくら村のルールとはいえ、まだ5歳で無理やり親元から引き離してしまうことに賛同はできない。このあたりからカルト村が「カルト村」である所以が見えてくる。

 そして高田さんが一年生になった頃、問題の人物が現れる。そう、子どもたちをスパルタで育てる世話係だ。テレビの禁止、クリスマスの禁止、オモチャやマンガ、オシャレの禁止……と、日を追うごとに禁止事項が増えていく。同時に、それまでは毎週末両親に会うことが許可されていたのに、その頻度がどんどん減らされ、終いには3カ月に1回だけになってしまう。もちろん、あまりの寂しさに大泣きする高田さん。その胸中を思うと、読んでいるこちらも胸が締め付けられそうになる……。

カルト村で生まれました。P92

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 ただし、本作を読んでいて救われるような気持ちにもなった。それは何故か。高田さんの両親がどのように出会い、結婚したのか。そして高田さんに対してどんな愛情を持っていたのかが、しっかり描かれているからだ。高田さんが置かれていた状況は一般的ではないし、やはり理不尽な思いをすることも多かっただろう。それでも両親に愛されていた事実は揺るがない。

 もちろん、「親には愛されていたんだから」という文句ですべてが帳消しにできるとは思わない。それでも大人になった高田さんが良きパートナーに恵まれ、幸せな毎日を送ることができているのは、カルト村で生まれてもなお、一般的な感覚を失わなかったからだ。そしてそれは、真っ直ぐに高田さんを愛してくれる両親の存在が大きかったのではないかと思う。

 カルト村では良いこともあったし、悪いこともあった。でもそれをすべてひっくるめて、自分の人生である――。本作を読むと、そのように胸を張る高田さんの姿が浮かんでくる。そんな高田さんの生き方は格好いいし、またテーマを変え、作品を発表し続けてもらいたいと願わずにはいられない。

文=五十嵐 大

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