森博嗣、西尾維新、辻村深月らを輩出した文芸誌『メフィスト』がリニューアル。その歴史と功績を振り返る!

文芸・カルチャー

公開日:2021/11/12

メフィストVol.1
メフィストVol.1

 2021年10月、文芸誌『メフィスト』がリニューアルを遂げ、会員制読書クラブ「メフィストリーダーズクラブ」(以下〈MRC〉)として新たなスタートを切った。会員になると、小説誌『メフィスト』が年4回自宅に届くうえ、オンラインイベントへの参加、限定グッズの購入など、さまざまな特典を受けられる。11月末まで無料キャンペーンを行っており、12月以降は有料制(年額/月額)に移行する予定だ。では、そもそも『メフィスト』とはどんな文芸誌なのか、その歴史を振り返っていこう。

 1996年に創刊された講談社の『メフィスト』は、ミステリーを中心にエンターテインメント小説全般を扱う文芸誌。2016年からは電子雑誌になり、2020年10月に一時休刊。そしてこのたび〈MRC〉として、リスタートすることとなった。

 そんな『メフィスト』の名を冠したのが、「メフィスト賞」だ。これは「究極のエンターテインメントを求む」という掛け声のもと始まった、賞金ナシ、締切ナシ、下読みナシという異例づくしの公募新人賞。1994年、京極夏彦が原稿を持ち込み、即デビューしたことがきっかけで創設に至った。

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 1996年、第1回「メフィスト賞」を受賞したのは、森博嗣の『すべてがFになる』。その後も清涼院流水、乾くるみ、舞城王太郎、西尾維新、辻村深月など、ミステリーやエンターテインメントの分野で活躍する異才を数多く世に送り出してきた。「イヤミス」で知られる真梨幸子、「東京バンドワゴン」シリーズの小路幸也も同賞出身だ。

 数ある新人賞の中でも、尖った作品が選ばれることの多い「メフィスト賞」だが、それには理由がある。前述のとおり、同賞の選考では下読みを介さず、すべての応募作を編集部員が精読している。他の人にも読んでほしいと思った作品は、編集部員による「座談会」でピックアップ。その模様もWebサイト「tree」で公表している。とはいえ、「座談会」では満場一致の受賞作を決めるわけではない。誰かひとりでも「この作品を本にしたい!」と熱烈に推せば、受賞もあり得る。つまり、万人向けの作品でなくとも、ひとりの編集者に偏愛されればデビューの可能性があるというわけだ。その結果、角の取れた良作よりも、多少いびつでも突き抜けた作品が世に出やすい傾向がある。投稿者と編集者の距離が近い賞とも言えるだろう。〈MRC〉にリニューアルしてからも、この方針が変わることはない。

線は、僕を描く
『線は、僕を描く』(砥上裕將/講談社)
法廷遊戯
『法廷遊戯』(五十嵐律人/講談社)
スイッチ 悪意の実験
『スイッチ 悪意の実験』(潮谷験/講談社)

 近年は、『線は、僕を描く』の砥上裕將が大ブレイクするなど、話題に事欠かない「メフィスト賞」。2020年には五十嵐律人『法廷遊戯』、2021年は潮谷験『スイッチ 悪意の実験』が受賞し、新たなスターも続々と登場している。読者の度肝を抜くような小説、未知のエンターテインメントが生まれる場として、今後も「メフィスト賞」および『メフィスト』から目が離せない。

文=野本由起

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