猟奇事件をさばくのは人見知り女将! 笑って驚き、最後は唸る安楽椅子探偵×ユーモアミステリ

文芸・カルチャー

更新日:2021/12/2

居酒屋「一服亭」の四季
『居酒屋「一服亭」の四季』(東川篤哉/講談社)

 シャーロック・ホームズの時代から、名探偵と言えばエキセントリックな人物というイメージがつきものだ。だが、『居酒屋「一服亭」の四季』(東川篤哉/講談社)に登場するヨリ子さんの変人ぶりは、そんじょそこらの名探偵をはるかに凌いでいる。見た目こそ儚げな和服美人だが、客が来ると気絶するほどの極度の人見知り(なぜ接客業を選んだ?)。小料理屋の女将にもかかわらず、料理をなかなか出してくれない(え、なんで?)。そして、名前は「安楽椅子」と書いて「安楽ヨリ子」。他にもいろいろツッコミどころの多い名探偵なのだ。

 と、ここまで聞いて、ピンと来た方もいるだろう。そう、本書は『純喫茶「一服堂」の四季』(講談社)の系譜を受け継ぐ作品。探偵役を務めるのは「2代目・安楽ヨリ子」だが、「鎌倉の路地裏で飲食店を営む女性が、怪事件を解決する安楽椅子探偵もの」という枠組みは共通している。前作とは別人だが、講談社ならぬ出版社・放談社の記者や鎌倉署の女性刑事が登場したりする点も『純喫茶「一服堂」の四季』を踏襲。各話の事件関係者が、ゆるやかにつながっていき、最終的にお店の常連になっていく点も前作を彷彿とさせる。いかにも「日常の謎」が描かれそうなのほほんとした舞台設定だが、挑むのは血みどろの殺人事件というギャップも面白い。

 今回発生するのも、四季折々の猟奇事件だ。第1話「綺麗な脚の女」で描かれるのは、ホットパンツが艶めかしい美脚女性画家のバラバラ事件。ある資産家が所有する山小屋で、美人画家の胴体だけが発見された。切り取られた四肢と頭部は一体どこに消えたのか。そのうえ、発見者が警察を呼びに行っている間に、密室状態の山荘から胴体も消えてしまい……!? こんな奇々怪々な事件も、ヨリ子さんにかかればたやすく解決。店を訪れた客が自分なりの推理を語ると「しょっぱすぎる推理ですわ!」と暴言を浴びせ、糸のようにもつれた謎をサラッと解いて見せる。

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 さらに、第2話「首を切られた男たち」では、老舗レストランで起きた首切り死体事件、第3話「鯨岩の片脚死体」では片脚だけ切り落とされた海岸での事件、最終話の「座っていたのは誰?」では、雪に覆われた宿で起きたバラバラ事件も鮮やかに解明。死体損壊事件ばかりが起きるが、そこまで凄惨ではなく、論理的で驚きに満ちたパズラー小説として楽しめる。登場人物の掛け合いも面白く、東川氏らしいユーモアミステリに料理されている。ヨリ子さんの言葉を借りれば、これぞ「猟奇的推理」ならぬ「料理的推理」といったところか。

 最後の1話を読んだあと、「え!?」とページを戻りたくなる意外な仕掛けも前作さながら。笑って驚き、最後は唸る。気づけばヨリ子さんの鮮やかな手さばきとアクの強い個性に魅了され、「一服亭」に入り浸りたくなってしまうはずだ。

文=野本由起

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