タラバガニ? いいえモンスターです… 話題のマンガ『新約カニコウセン』の魅力に迫る!

マンガ

公開日:2021/11/23

新約カニコウセン
『新約カニコウセン』1巻(原作:原田重光、作画:真じろう/白泉社)

“蟹工船”と聞いて、何を思い浮かべるだろうか…。多くの人は貧しい者たちが辿り着く最後の仕事、といったイメージを持っているはず。2021年10月29日(金)に発売された『新約カニコウセン』(白泉社)コミックス第1巻も、若き主人公たちが過酷な「蟹漁」に挑む姿が描かれている。しかし、その内容はきっとあなたの想像を超えていくだろう。

「オレたちに人権はない。金がないゆえに全てを剥奪された奴隷だ」「この世の船底で命をかけて漁に出る。蟹を狩るために」。こちらは冒頭の言葉。最下層へと突き落とされた者たちの悲壮が伝わってくる。きれいごとでは済まされない、蟹漁の厳しさを分かりやすく表現しているとも言えるのではないか。

 しかし待ってほしい。最初の見開きページで主人公たちが対峙しているのは、どう考えてもモンスター。両腕にお馴染みのハサミを携えフォルムは蟹だが、サイズが大きすぎるのだ…。

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 同作の舞台は全ての海が蒸発し、代わりに入り組んだ地形と激しい寒暖差によって生み出された“空流”が地表の7割を覆っている世界。水棲生物は空流に乗って空を泳ぐようになり、独自の進化を遂げて巨大化していた。そんな世界でも、国家間では漁を巡る熾烈な争いが起きている。特に国を挙げて力を入れているのが、蟹漁だという。

 はじめに主人公の流伽(るか)が対峙していたのはタラバガニ。「蟹の王様と呼ばれる。出汁は出ないので焼いたり蒸したりそのまま食べるのが一番美味とされる」といったグルメマンガのような紹介文が添えられているが、見た目はファンタジー系のゲームに出てくる中ボスくらいのインパクトである。開始数ページで、絵と文章のギャップに戦慄せずにはいられない。一体これから、どんな物語が展開していくというのか…。

 だが同作は、決してギャグマンガではない。刃物はもちろん銃弾をも弾き返す堅牢な蟹に、流伽たちは己の身一つで挑んでいく。人間の5~10倍近く大きい蟹を相手にするのならば当然、命がけの戦いになる。鬼気迫る流伽たちのバトルシーンは圧巻だ。

 空流での蟹漁を軸とし、同作はもう一つの物語を展開する。それは「蟹工船」での生活。蟹漁を終えた工員は、すぐさま蟹の加工に着手していくが、船では不衛生な環境、荒くれ者揃いの工員の中で、監督・九条の圧政にも耐えなければならない。最底辺の蟹工船にいても、いつか船を降りることを目標にして誇り高く生きる流伽。

 ある時、九条は昇格試験と称して流伽の前にシャコを解き放つ。シャコにも豆知識的なほっこりする紹介文が添えられているが、その姿は宇宙生物そのもの。作画担当・真じろうの圧倒的な画力で描かれる巨大水棲生物に、思わずワクワクしてしまう人も多いのではないだろうか。

 次の展開が全く読めない『新約カニコウセン』。なぜ国家間の漁が重要視されているのか、陸地には一体どんな世界が広がっているのか…。第1巻では大いなる謎が散りばめられている。興味のある人は、ぜひ同作をチェックしてみてほしい。

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