『ピアノのムシ』著者の最新作! 変わり者な裁判官×記憶喪失の少女がおりなす異色法廷マンガ

マンガ

公開日:2021/11/16

法廷のファンタズマ
『法廷のファンタズマ』(荒川三喜夫/芳文社)

 超優秀、超真面目な常識人。感情に振り回されずに、いつでも冷静。厳格……。裁判官というと、そんな「お堅い人」を想像してしまう人は少なくないだろう。しかし、この裁判官は一味も二味も違う。その人物とは、浦口徹。新感覚のリーガルマンガ『法廷のファンタズマ 1』(荒川三喜夫/芳文社)に登場するキテレツな裁判官だ。作者は、ピアノ調律師を題材とした『ピアノのムシ』で知られる荒川三喜夫氏。『ピアノのムシ』でもそうだったが、荒川氏の描く「はみ出し者」はとびきり面白い。浦口徹の常識はずれの言動には本当にヒヤヒヤさせられるのだ。

 浦口徹は、司法試験最下位合格で任官した裁判官。周囲からは、「裏口合格の裏口裁判官」と揶揄されているオカルト好きの変わり者だ。徹のやることなすこと全てに周囲の人たちは呆れ顔。そんな徹は、ある時、記憶喪失の女子高校生・アカリと出会い、アカリが記憶を取り戻す手伝いをすることになる。そして、アカリも彼女なりに、徹の裁判官としての仕事に協力することに。

法廷のファンタズマ 5話

法廷のファンタズマ 7話

 徹を“変わり者”といったが、それはアカリの件だけではない。裁判の真っ最中なのに携帯電話を鳴らしてしまったり、被告人の本籍近くの幽霊団地についての雑談を好き勝手にはじめたり、検察からの求刑に対して「えーそんなにする? 初犯だよ? こんなきれいな女(ひと)なのに?」と反論したり……。徹の言動からはとにかく目が離せない。

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法廷のファンタズマ 1話

法廷のファンタズマ 1話

 第1話では、運転中に幽霊を見て交通事故を起こした被告人の証言を検証するため、徹は、関係者で現場検証を行うことを決定する。そして、現実の法に照らし合わせながら、オカルト論争が繰り広げられるように仕向けるのだ。その突飛にも思える展開を、刑事裁判の流れに沿って描いているから臨場感たっぷり。思うように裁判が進められずに、イライラを隠せないでいる検察の表情がなんともおかしい。と同時に、徹の危うい言動や、彼に寄り添う女子高生・アカリの姿に「この裁判官の倫理観、本当に大丈夫なのか?!」とも感じずにはいられない。

法廷のファンタズマ 2話

法廷のファンタズマ 4話

 しかし、周囲からはボンクラ扱いされている徹にも、裁判官としての確固たる信念があるのだ。彼の思い、言動の意図が次第に明らかになるにつれて、徹の印象が変わっていく。「たまにはこんな裁判官がいたっていいのかもしれない」。次第にそんな気持ちにさせられていくからなんとも不思議だ。

法廷のファンタズマ 1話

 没入感の高さもこの作品の魅力。モノローグがナレーションとして描かれているせいか、まるでアニメを見ているかのように登場人物たちの思いがダイレクトに伝わってくる。法廷ドラマとして大真面目に淡々と話が進められつつも、ぶっ飛んだ設定と読めない展開にハラハラドキドキ。「どういうことだ?」という会話やシーンに、気づいたら読む手を止められなくなっていく。

 アカリの失われた記憶も気になるところ。一体、アカリの過去には何があるのか。徹はその秘密にたどり着くことができるのか。今後の展開からも目が離せない。“変わり者な裁判官”と“記憶喪失の少女”、前代未聞のバディものにあっと驚かされること間違いなし。この新感覚のリーガルドラマをぜひあなたも体感してほしい。

文=アサトーミナミ

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