「あなた嫌われてますから」。ネットの過激な誹謗中傷と戦った5年間の奮闘記

マンガ

公開日:2021/11/18

誹謗中傷犯に勝訴しました ~障害児の息子を守るため~
『誹謗中傷犯に勝訴しました ~障害児の息子を守るため~』(moro/竹書房)

 ネット社会の今、誰もが世の中に向けて自由に意見や情報を発信できるようになった。しかし気軽に投稿したその内容が発端となり、ある日突然どこの誰ともわからない匿名の人物による「誹謗中傷」にさらされ、事実とは異なる形で拡散してしまったら…。

『誹謗中傷犯に勝訴しました ~障害児の息子を守るため~』(moro/竹書房)はネット上での誹謗中傷の恐ろしさを、実体験をもとにまとめたコミックエッセイだ。終わりのない過激な攻撃と戦い続けた5年間の壮絶な日々が、生々しく描かれている。

 著者のmoroさんは自閉スペクトラム症の息子との日々を漫画で綴るブログをやっていた。そんなとき、届いた1件のメッセージ。「あまり調子に乗らないほうがいいですよ。あなた嫌われてますから」。そこから約5年間、moroさんはネット上での誹謗中傷に悩まされることとなる。

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誹謗中傷犯に勝訴しました ~障害児の息子を守るため~ P12

誹謗中傷犯に勝訴しました ~障害児の息子を守るため~ P13

 最初は別段気にしていなかった。しかし誹謗中傷の内容は徐々にエスカレートし、ついに人生初の「炎上」を経験してしまう。以降、アンチからの粘着を受けるようになり、否定的な意見のカキコミが続き、ついには“アンチブログ”までつくられてしまうのだ。

誹謗中傷犯に勝訴しました ~障害児の息子を守るため~ P28

誹謗中傷犯に勝訴しました ~障害児の息子を守るため~ P29

 アンチブログに現れた「息子が通う小学校の保護者」と名乗る人たち。「ブログや漫画の内容は現実と違います」と訴え、「みんなkくん(moroさんの息子)に迷惑しています」「kくんは問題児」「迷惑親子で有名」「お店でkくんが騒いでも親は開き直っている」「市内のレストランでは出禁をくらっている」とmoroさんの身に覚えのないことまで、まるで事実であるかのように書き込まれてしまう。

 さらには、「息子の顔どんななのか気になる」「小学校特定できたよ」「moroの本名分かる人ヒントちょーだい」とだんだん個人情報がさらされるように。そして保護者たちは学校や教育委員会に連絡を取り、kくんを転校させようとする動きに出る。

誹謗中傷犯に勝訴しました ~障害児の息子を守るため~ P40

誹謗中傷犯に勝訴しました ~障害児の息子を守るため~ P41

 そんな日々は、moroさんの精神をどんどん追い詰めていく。特定できない人物からの攻撃に恐怖で吐き気が止まらず、学校内では「もしかしたらあの人が犯人かもしれない」と疑心暗鬼になる日々が続いた。

 そんな気持ちとは裏腹に、アンチブログの保護者たちはますます激しさを増す。「保護者からのクレームを学校や教育委員会から聞いているはずなのになぜ無視をするのか」「ブログを休まないなら運営へ苦情を入れようと思う」と直接moroさんに訴えるようになり、それに対してネット民が「いいねいいね」と盛り上がり、ツイッターでも事実無根の噂がどんどん拡散されていったという。

誹謗中傷犯に勝訴しました ~障害児の息子を守るため~ P102

誹謗中傷犯に勝訴しました ~障害児の息子を守るため~ P103

「もし息子がネットに触れる年齢になった時、この誹謗中傷を目にしたらどうしよう」
「このままだと息子の日常にまで支障をきたすかもしれない」

 こうしてmoroさんは、子供を守るために法廷で誹謗中傷犯と闘うことを決心するのだ。

 moroさんがこれらの体験をしたのは2013年からのこと。今でこそネットによる誹謗中傷が重く受け止められるようになり法改正も進められているが、当時はまだ訴訟まで起こす人は少なかったように思う。“匿名性”を盾にした誹謗中傷は粘着性が高く、一度ターゲットにされてしまうと、根も葉もない話を拡散され、罵詈雑言を浴びせられ、さらに個人情報までさらされてしまうのだ。

 本書を読めばわかるが、一言で裁判といっても犯人を特定し、犯人に損害賠償を支払わせるまでの道のりは長く、険しい。インターネットが日々の生活に欠かせないものとなった今、誰もが誹謗中傷の被害者、そして加害者になりうる。もし自分がmoroさんと同じような状況に立たされたら…。本書をきっかけに、ネット社会のあり方を改めて考えてみてほしい。

文=齋藤久美子

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