グルメミステリー界の新機軸! 美少年探偵と庶民派家政婦の凸凹コンビが「チョイ足し」料理で謎を解く

文芸・カルチャー

公開日:2021/11/18

貴公子探偵はチョイ足しグルメをご所望です
『貴公子探偵はチョイ足しグルメをご所望です』(相沢泉見/ポプラ社)

 苦しい家計を助けるため、住み込みで家政婦をしている一花。新たな勤め先として高級住宅街の豪邸へ派遣された彼女は、金髪碧眼の美少年・東雲リヒトに仕えることに。天才的な頭脳を持つリヒトのもとには、富裕層から次々に相談ごとが持ち込まれ、なぜか一花は彼の助手となるハメに……。

 寺地はるな、中島久枝など気鋭の作家を輩出しているポプラ社小説新人賞が今年で10回目となった。応募数876作品の中から奨励賞に選ばれた『貴公子探偵はチョイ足しグルメをご所望です』(相沢泉見/ポプラ社)は、ミステリーと食と、キャラクター小説の楽しみに充ちている。

 主人公・一花のモットーは「安いものを少しでも美味しく」作ること。

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 高いものが美味しいのは当たり前だが、安いものを美味しくするには、少々の工夫と想像力がいる。それは日々、料理をしている人ならば誰しもうなずけるだろう。

 たとえ肉がなくとも、格安の食材ばかりでも、アイディア次第でサーロインステーキに負けないくらい美味しいものができる――という料理上手の母の薫陶を受けて、一花は「チョイ足し」料理の達人となった。高級なものは一切使わず、手間をかけず、あくまでも身近にある調味料やプラスαの食材を「チョイ」と足すだけで、いつもの料理がごちそうへと変身する。

 そんな一花の「チョイ足し」レシピは、有名レストランの料理すら美味に感じていなかったリヒトの心と胃袋を、ぎゅっと掴んでしまう。

 名家の庶子(それも日本人とドイツ人のミックス)という複雑な出自をもつリヒトは、頭脳は大人以上に明晰ながら精神面はなにかと多感な17歳の男の子だ。愛する母を失って以来、食べることに興味がなくなり、三食をサプリフードで済ませている。

 だけど、謎を解いた後だけは、ほんの少し食欲が出てくる。リヒト曰く「謎解きだけが唯一、僕の食欲を少しだけ引き出してくれる」。それで彼は探偵業をしているというわけだ。

 そんなリヒトのもとには色々な依頼がやってくる。一花が以前に働いていた屋敷の主人に送られる脅迫状(第1話)。名門一家の当主の誕生日パーティーで起きた宝石消失事件(第2話)。リヒトの初恋の女性が登場する、ある遺言状をめぐる案件(第3話)。そして、好条件の立ち退き交渉に応じない老人の秘密を探る最終話。

 それらの謎に臨むリヒトに、意外なヒントをもたらすのが一花の「チョイ足し」料理である。なんとかしてリヒトに食べることを楽しんでもらいたい。そんな一心で一花は、工夫と想像力を凝らした様々な一皿を供する。

 たとえば、バニラアイスに“あるもの”を振りかけると、より甘くなり、奥ゆきが深くなる。カレーライスに“あるもの”を混ぜることで、2日目のカレーが劇的に変わる。

 作中で紹介されるこれらの「チョイ足し」は手軽に試すことができるうえ、意外性のあるものばかり。ちなみに私はバニラアイスに、その“あるもの”を振りかけてみたけれど、実際に味が変わって驚いた。

 リヒトと一花は境遇も性格も、何もかもが対照的だ。

 超のつくお金持ちだけど、家族の縁に薄く、ややニヒリストのきらいがあるリヒト。超貧乏ながらも家族愛に恵まれて、ポジティブで明るい一花。

 対照的であるからこそ2人は影響を与えあい、凸凹ながらも名コンビへと成長していく。来年3月には早くも第2巻が発売される。美味しい謎と「チョイ足し」レシピが楽しめる人気シリーズとなりそうだ。

文=皆川ちか

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