TVアニメ『鬼滅の刃』走る列車内での3DCG戦闘描写はufotableの技術総決算!?/無限列車編第5話

アニメ

公開日:2021/11/21

鬼滅の刃
(C)吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable

 いよいよ「鬼との直接対決」が始まった。無限列車の中で鬼を追う、竈門炭治郎の前に立ちはだかる相手は「夢」を操る下弦の壱・魘夢。炭治郎は、水の呼吸を駆使して魘夢の頸を切り落とすが、その肉体はすでに空っぽ。魘夢の肉体は無限列車と一体化していた。魘夢は無限列車の客車を自らの肉塊で包み込んでしまう。炭治郎と鬼殺隊は、肉塊となった列車そのものと対決することになる。

 TVアニメ『鬼滅の刃』無限列車編の第五話「前へ!」は、炭治郎と嘴平伊之助、竈門禰豆子と我妻善逸、そして炎柱の煉獄杏寿郎が鬼と一体化した無限列車で戦うエピソード。

 客車の天井や床からにじみ出てきた肉塊は、意志を持っているかのように、眠りについている乗客たちを包み込む。煉獄さんと禰豆子、善逸たちは乗客を助けるために、不気味にうごめく肉塊を斬り落とすが、斬っても斬っても増殖してしまい、きりがない。じわじわとあふれてくる、グロテスクな肉塊――。

advertisement

 TVアニメとして放送された第五話では、禰豆子たちが肉塊と戦うアクションシーンに劇場版にはない新規カットを複数投入し、鬼の肉塊vs.鬼殺隊の剣士たちの戦いを迫力満点に描いている。ここであらためて、TVアニメ・無限列車編の前半のクライマックスである客車内でのアクションを細かく見直してみよう。

 そもそも「列車の客車内」というシチュエーションは、刀を使ったアクションを描くには不向きなステージだ。

 まず、本作で描かれている、客車の客席の間にある通路はとても狭い。狭い車内にはクロスシートと呼ばれるふたり掛けの横向き座席が左右にひとつずつ置かれており、その間の通路の幅は、おおよそ1メートル未満と推測される。通路で刀を振ろうものなら、客席や客席の手すりにぶつかってしまうほどの窮屈さだ。

 次に、客車の客席には老若男女の乗客が乗っている。人間が乗っている座席のそばで刀を振り回すことは危険だし、乗客を傷つけないように戦うことは至難の業だ。そもそもアニメ制作においては、乗客すべてを作画しなくてはいけなくなるため、その労力も膨大になるだろう。

 そして、さらに大変なのが、この列車は常に走り続けているということ。客車は常に振動し、走行音が鳴り続けている。窓の外では夜の森が流れていき、列車の外に出れば強い風が吹きつけている。走り続ける列車における戦闘は、野原や荒野で戦うのとはわけが違うのだ。

 狭くて、たくさんの人がいて、常に動いている空間で、刀を持った剣士が縦横無尽に戦いまくる。いわば「移動する密室」で、違和感のないアクションを描くには、たくさんのアイデアと調整が必要になるだろう。ちょっと考えるだけでも気が遠くなりそうじゃないか。

 アニメーションを制作しているufotableは、この無限列車編のバトルフィールドとなる客車の客席を、3DCGで作りあげているのだという。客席は複雑なかたちをしており、それらが規則的に並んでいる。こういうシチュエーションは、3DCGで作るのに向いている。碁盤の目のように一定間隔で立体的な座席を並べ、さらに木材で作られている車両や堅そうな座席の質感、客車の薄暗い雰囲気をくわえて、ひとつの空間を描き出す。まさに3DCGならではの、密室感あふれるバトルフィールドになっていると言えるだろう。

 また、この客車を包み込む肉塊もまた、主に3DCGで描かれている。客車の床や壁からにじみ出て、ドロドロとあふれていく肉塊。その肉塊がぐちゃぐちゃと増殖し、変形し、触手のように炭治郎たちに襲いかかる。ゲル状の液体のような肉塊の質感は、まさしく3DCGらしい表現だ。

 ufotableで3DCGを手掛けているのは、3D監督の西脇一樹氏が率いる3DCGセクション(デジタル映像部)。一般的なアニメ作品では、3DCGの作成を専門のスタジオに外注することが多いが、ufotableでは社内に3DCGセクションを設け、手描き作画や撮影のセクションと密接な情報交換をしながら、全セクションが一丸となったアニメ作りを進めているのだという。

 この無限列車編においても、客席や肉塊、触手を3DCGで描きつつ、天井や壁や床に張り付いている肉塊は美術、そして刀に斬られて飛び散る肉塊は作画で描くといった体制で作り込んでいるそうだ。西脇氏を中心とした触手の描写が、本作の迫力を増していると言えるだろう。

「肉塊的な触手と人間が戦う」というアクションシーンは、アニメやマンガとしてはある種の「王道」というか、さまざまな作品で描かれてきたモチーフだ。ufotable作品においても。TVアニメ『Fate/Zero』(2011~2012年)の第7話で触手を巻きつける海魔とセイバーのバトルが描かれ、TVアニメ『Fate/stay night [Unlimited Blade Works]』(2014~2015年)の#23では、顕現した聖杯の肉塊と触手が登場。そして劇場版『Fate/stay night [Heaven’s Feel]』シリーズ(2017~2019年)に登場する「影」からは、不定形に伸びる触手が描かれてきた。

 それらを表現する手法はさまざまだ。『Fate/Zero』のときは作画で、『Fate/stay night [Unlimited Blade Works]』では美術で、そして劇場版『Fate/stay night [Heaven’s Feel]』シリーズでは3DCGでと、違う手法で描かれてきたが、今回のTVアニメ『鬼滅の刃』無限列車編の3DCGを主体としたハイブリッドな触手アクションは、これまで多彩な手法で触手を描いてきたufotableの、現在までの総決算的なアプローチだと言えるかもしれない。

 炭治郎たちは肉塊を斬り、魘夢を打ち破る。無限列車は脱線し、炭治郎たちは列車から弾き飛ばされる。下弦の鬼との戦いは決着を迎えた。TVアニメ無限列車編の最初のクライマックスが終わり、列車は止まった。だが、物語は走り続ける。いよいよ真の強敵を迎える後半戦が始まる。次回がますます楽しみになる第五話だった。

あわせて読みたい